最新記事
インド外交

モディのキーウ訪問は「外交方針の転換」か、それとも「戦略的ポーズ」か

2024年8月26日(月)11時20分
スミット・ガングリー  (フーバー研究所客員研究員)
出迎えたゼレンスキー大統領(右)と抱擁を交わすモディ(8月23日) UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICEーHANDOUTーREUTERS

出迎えたゼレンスキー大統領(右)と抱擁を交わすモディ(8月23日) UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICEーHANDOUTーREUTERS

<ロシアとウクライナの間を揺れるインドの外交政策が、モディ首相のキーウ訪問によって注目を集めている>

インドのモディ首相は7月8日にモスクワを訪問し、ロシアのプーチン大統領と抱擁を交わした。同日、ロシアはウクライナ全土に空爆を行い、同国最大の小児病院を攻撃。少なくとも41人が死亡した。

モディは遠回しにこの空爆と死傷者に触れたが、この時の訪ロとプーチンとの抱擁はアメリカをはじめとする国際社会の批判を免れなかった。

インド政府は表向き批判を受け流したが、外交当局は気にしていたようだ。モディは8月23日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪れてゼレンスキー大統領と会談した。

国際社会の批判以外に、この訪問の背景に何があったのか。まず、モディと側近たちがもはやロシアは必要な軍事物資を適切なタイミングで提供できないと判断した可能性がある。特に中国の脅威を考えれば、インドはこの種の不確実性を許容できない。

キーウ訪問がロシアを怒らせたとしても、インドは政治的悪影響に対処できる。そもそも今のロシアは、頼りないパートナーであることを自ら露呈している。

インド政府当局者はモディの訪ロの合理的根拠として、戦略的自立の国是を口にする。その核心にあるのが、独立した外交政策の強調だ。

ただし、アメリカのインドに対する忍耐に限界があることをインド側も認識している。戦略的自立の重要性はさておき、良好な対米関係の維持も外交上の優先課題の1つであり、モディのキーウ訪問はその反映なのかもしれない。

ロシアの中国との接近を阻止しようとするインドの取り組みがうまくいっていない可能性もある。ウクライナ紛争が長引き、外交的孤立を深めるロシアにとって、中国はほぼ唯一の戦略的パートナーだ。

一方、インドとは伝統的に良好な関係にあるが、ロシアとしてはインドが欧米との関係強化を放棄することはないと判断せざるを得ない。

それを考えると、モディ・プーチン会談で実質的成果がほぼなかったことは注目に値する。両国は9つの協定に調印したが、重要性は低いとみられている。

モディはキーウ訪問によって、インドとの関係を当然視するなというシグナルをロシアに送ろうとしたのかもしれない。「仇敵」パキスタンへのロシアの接近や、必要な軍事物資の供給を維持できない現状を考えれば、インドには対ロ関係を再考する理由がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、FRB利下げ観測を意識 7

ビジネス

FRB「近いうちに利下げ必要」、労働市場は減速=S

ワールド

スイス大統領、米関税回避で合意得られず 国務長官と

ワールド

トランプ氏、早ければ来週にプーチン大統領と直接会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 2
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの母子に遭遇したハイカーが見せた「完璧な対応」映像にネット騒然
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 5
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 6
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トラ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    大学院博士課程を「フリーター生産工場」にしていい…
  • 9
    かえって体調・メンタルが悪くなる人も...「休職の前…
  • 10
    バーボンの本場にウイスキー不況、トランプ関税がと…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 9
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 10
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中