最新記事
ライフスタイル

「将来の心配より今が大事」── 開き直った韓国YOLO世代の絶望と豪胆

South Korea's 'YOLO' Generation Isn't Helping Falling Birthrate

2024年8月29日(木)19時07分
マイカ・マッカートニー
ソウルで口紅を試す客

ソウルで口紅を試す客(2013年8月6日) REUTERS/Lee Jae-Won

<政府の必死の少子化対策にもかかわらず、若者の間では結婚という「非現実的なゴール」のためにあくせくするより、いま好きなことにお金を使うほうがいいと、デパートで贅沢品を買い漁るYOLO派が増えている。合言葉は「人生は一度きり(YOLO)」だ>

「家庭を持つより、自分のためにお金を使ったほうがいい」──物価の上昇と住宅価格の高騰で前途に希望が持てなくなった韓国の若者の間で今、そう開き直る風潮が広がっている。

世界最速ペースで少子化が進む韓国では、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が今年6月に「人口非常事態」を宣言。国を挙げて人口減少を止めようと、政府は必死で対策を進めているが、そうした試みもむなしく、若い世代の間では結婚離れが進んでいる。

韓国では2023年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)が0.72と、前年の0.78を下回り、8年連続で過去最低を記録した。政府は2021年までの16年間に少子化対策におよそ280兆ウォン(約2100億ドル)の予算を投じたが、効果はほとんどなかったようだ。

このまま人口が減り続ければ、中国、日本、インドに次ぐアジア第4位の経済大国の地位も危うくなる。そのため尹政権は今年、少子化対策を総合的に指揮する「低出生対応省」(仮称)を新設する方針を打ち出した。

だが韓国のY世代とZ世代にはすでに、「結婚・子育ては必ずしもライフプランに入れなくていい」という意識が浸透しているようだ。

自分のためにお金を使いたい

「この世代はネット上のステータスを求める傾向が強い。今の韓国では結婚して子供を持つことは経済的なハードルが高すぎる。そんな非現実的なゴールのためにあくせくするより、好きなことにお金を使い、それをSNSでアピールするほうがいいと、若者たちは考えている」ソウル女子大学の鄭宰薰(チョン・ジェフン)社会学教授はそうロイターに説明した。

韓国は1人当たりの贅沢品の購入額が世界でも突出して多い。金融大手モルガン・スタンレーの2023年の調査によると、日本の210ドル、アメリカの280ドルに対し、韓国は325ドルだ。

特に20代、30代はデパートで買い物をする割合が多い。クレジットカード会社の現代カードの調査によれば、3年前と比べ、消費支出に占めるデパートでの買い物の割合は全年代で低下しているが、20代だけは例外で、3年前の2倍近い12%をデパートでの買い物に使っているという。

支出が増える一方で、貯蓄額は減っている。韓国の中央銀行・韓国銀行によると、30代の韓国人は2019年の第1四半期には平均して所得の29.4%を貯蓄に回していたが、今年同期にはこの割合は平均28.5%に減ったという。

「私は完全なYOLO派」と、ロイターの記者に打ち明けたのは、好みのファッションをインスタグラムに投稿しているソウル在住の28歳の女性、パク・ヨンだ。YOLO(ヨーロー)とは、You Only Live Onceの頭文字を取った略語で、人生は一度きりだから、今を思いっきり楽しもうといった意味合いを持つ。人気ドラマをきっかけに、そうしたライフスタイルが若者の間で熱狂的な共感を呼んだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

メキシコCPI、11月前半は予想上回る コアインフ

ビジネス

ルノーCEO、新EU規則で現地部品調達の定義拡大を

ワールド

為替相場、投機的動向含め高い緊張感持って見極めてい

ワールド

米国防総省、民主議員を「不正」で調査 軍に違法な命
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中