最新記事
中東

各地の「イランの民兵」が、はじめて対イスラエルの合同軍事作戦を実施した

2024年6月10日(月)14時07分
青山弘之(東京外国語大学教授)

「イランの民兵」の攻撃は、統合的に行われることはなかった

シリア政府側は、シリア内戦の文脈において、これらの組織を「同盟部隊」と呼ぶが、それらは対イスラエル抵抗闘争の文脈において「抵抗枢軸」と呼ばれる、シリア、ヒズブッラー、パレスチナ諸派そしてイランからなる陣営の一翼を担っていると見ることができる。

ハマース・イスラエル衝突が始まって以降、「イランの民兵」が、ガザ地区のパレスチナ人に対する虐殺(あるいはそれへの支援)への報復として、イスラエル、そしてシリア、イラク領内の米軍(有志連合)基地、さらには紅海、インド洋の米軍艦船への攻撃を繰り返してきたことは周知の通りだ。だが、各組織の攻撃は、統合的、あるいは同時的に行われることはなかった。

 

「イランの民兵」諸派の作戦が、綿密な調整のもとに実施されていたかどうかは定かではない。だが、イスラエルや米軍に対する攻撃は、例えば、シリア領内でイラン・イスラーム革命防衛隊の顧問がイスラエル軍の標的となった場合は、イランではなく、イラク・イスラーム抵抗、ヒズブッラー、あるいはアンサール・アッラーが即応するというように、波状的、かつ限定的に行われてきた。イスラエルの攻撃に対して、真正面から対峙し、報復を躊躇しないのは、ヒズブッラーくらいで、それ以外の組織は、イスラエル(あるいは米軍)との直接戦闘が持続するのを避けることで、ダメージの軽減を図るとともに、紛争全体のエスカレーションを回避しようとしてきた。

その意味で、アンサール・アッラーとイラク・イスラーム抵抗が公然と合同軍事作戦の実施を宣言したのは、その戦果がどうであれ、ハマース・イスラエル衝突への干渉における戦術面での変化(の予兆)と解釈することもできる。

アンサール・アッラーとイラク・イスラーム抵抗の合同軍事作戦は、両組織の声明を見ると、イスラエルによるパレスチナ人への攻撃、とりわけガザ地区のラファなどに対する攻撃への報復として位置づけられている。6月6日には、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営するガザ地区中部のヌセイラットの学校が爆撃を受け、ガザ地区保健省の発表によると、子供や女性を含む40人が死亡、70人以上が負傷した。

シリア北部へのイスラエル軍の爆撃に、報復を示唆

また、6月3日には、シリア北部のアレッポ市の北西約10キロの距離に位置するハイヤーン町一帯がイスラエル軍の爆撃を受け、イラン・イスラーム革命防衛隊の顧問で精鋭部隊の司令官でもあるアスアド・エブラールを含むイラン人2人、シリア人9人、イラク人3人、ヒズブッラーのメンバー3人の17人が殺害された(「イスラエルがシリアを攻撃し、イラン人ら死亡、近くにはS-300が配備されているとされるロシア軍拠点も」Yahoo! JAPANニュース、2024年6月4日)。

この攻撃に対して、イラン・イスラーム革命防衛隊のホセイン・セラーミー司令官(少将)は6月5日、「シオニストどもは、この攻撃で流れた無実の人々の血に対する代償を払わされることを学ばねばならない。彼らは報復を待たねばならない」と述べ、報復を示唆していた。

英国で活動する反体制派系NGOのシリア人権監視団によると、イスラエル軍によるシリアへの攻撃は、今年に入って44回目(うち32回が航空攻撃、12回が地上攻撃)で、これにより92あまりの標的が破壊され、軍関係者165人が死亡、69人が負傷している。

同監視団によると、軍関係者の死者内訳は以下の通りである。
・イラン人(イラン・イスラーム革命防衛隊):23人
・ヒズブッラーのメンバー:33人
・イラク人:15人
・「イランの民兵」のシリア人メンバー:44人
・「イランの民兵」の外国人メンバー:10人
・シリア軍将兵:40人

また、民間人も13人(女性2人と子供1人を含む)が死亡、20人あまりが負傷している。
こうした状況を踏まえると、アンサール・アッラーとイラク・イスラーム抵抗の合同軍事作戦は、シリア領内で繰り返される「イランの民兵」を狙った攻撃に対抗するための新たな戦術と見ることもできる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

「平和評議会」設立式典、ガザ超えた関与をトランプ氏

ワールド

中国、トランプ氏の風力発電批判に反論 グリーン化推

ビジネス

英ビーズリー、チューリッヒ保険の買収提案拒否 「著

ワールド

NATO、北極圏の防衛強化へ トランプ氏との合意受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている「とてつもなく巨大な」生物...その正体は?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 4
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 8
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 9
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 10
    ノーベル賞に選ばれなかったからグリーンランドを奪…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 10
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中