最新記事
中国

習近平はなぜ長期政権を目指すのか...中国共産党「非公開内部資料」から読み解けること

2024年5月28日(火)14時45分
大熊雄一郎 (共同通信社記者)
習近平

plavi011-shutterstock

<公に説明したことはない、長期政権を目指す理由。その「野心」の原動力とは何か?>

独裁色を強める、習近平政権。その習近平は「毛沢東の夢」に言及したことがある。その「野心」の原動力とは何であり、毛時代と大きく異なる点は何か?

党・国家の中枢から翻弄される市井の人々まで、一人ひとりの声に耳を澄ませながら、幸福な全体主義国家を描いた...。

中国取材の第一線で活躍する気鋭のジャーナリスト・大熊雄一郎の『独裁が生まれた日』(白水社)より一部抜粋。


 

長期支配の理由

習近平はなぜ長期政権を目指すのか。公に説明したことはない。その動機を探るヒントが、中国共産党の非公開の内部発行資料にあった。

資料によると、党は2018年1月に党中央委員や閣僚を集めた会議を開いた。習はその場で演説し、「毛沢東の夢」に言及していた。

習は「共産党が何をなすべきか」と問題提起し、1956年8月の毛の言葉を引用した。「世界最強の資本主義国家、すなわち、米国に追い付く」「もしそうでなかったら、われわれ中華民族は全世界の各民族に申し訳が立たないし、人類への貢献も小さいものになる」

習は偉大な社会主義国家を築けば「他国に見下される不運な状況を変え」られると力説した。

この発言は、党が国家主席の任期制限撤廃の方針を決める直前のものだ。最強の資本主義国である米国に追い付いて「強国」を築くためには長期安定政権が必要だと主張し、終身国家主席を可能にする重大決定の支持取り付けを図る狙いがあったとみられる。

習は本気で国際秩序の主導権を握ろうとしている。中国が14億人を抱える大国にふさわしい地位を得られていないとの不満が背景にある。

最高実力者だった鄧小平は経済成長に必要な国際環境を維持するため、能力を隠して国力を蓄える外交戦略「韜光養晦(とうこうようかい)」路線を取り、対米関係の安定を最重要課題に据えてきた。

一方、習は対米戦略を転換し、米国主導の秩序を突き崩す意図を隠さなくなった。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を後押しするとして「グローバル発展イニシアチブ」を提唱。

ロシアや北朝鮮など反米国家との連携を深め、中国、ロシア、インドなど新興国でつくる「BRICS」の枠組みを軸に影響力を高め、グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の取り込みを進めている。

国家主席任期撤廃は、米政権が中国の民主化に見切りを付け、台頭する中国を「挑戦者」と位置付けるきっかけにもなった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

SHEIN、米事業再編を検討 関税免除措置停止で=

ビジネス

中国中古住宅価格、4月は前月比0.7%下落 売り出

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中