最新記事
インタビュー

車いすユーザーの声は「わがまま」なのか? 当事者に車いす席の知られざる実態を聞く

2024年3月25日(月)11時30分
小暮聡子(本誌記者)



――ネット上で見かけた意見として、障がい者は一般席よりも割引価格であり、同伴者も同じく割引されている。だから多少観にくくても我慢しろ、という論調もあった。

割引になるのは、障がい者手帳を提示した場合に限るとされている。車いす席自体が安くなっているわけではなくて、あくまで障がい者手帳を提示した場合に安くなる。逆に言うと、事業者側は、車いす席の購入に際しても障がい者手帳の提示がなければディスカウントはしなくてよい。

もう1つネットで指摘されていた点として、映画鑑賞中に地震や火事など避難の必要が出てくる場合に備えて、出入口に近いところに車いす席が作られている、という点。ここにフォーカスして言及されてしまうと、1人で観る場合は現状車いす席という選択肢しかなくなってしまう。僕の場合は、選択肢をなるべく広げたいので、妻と一緒に前もって予定を立てて行くようにしている。

 
 


――映画館以外で車いす席を利用する際、困ったことは過去にあったか。

サッカー観戦をする際、ゴールが期待されるシーンでエキサイトするとみんな立つじゃないですか。前列の席の人が立つと、車いすの人は重要なシーンが見えない、ということが起きる。

今はそれを解消するため、車いす席の前の席の人が立った状態でもピッチ内が観れるように、高さを変えて「サイトライン」(利用者の目線)をしっかりと確保しているところも増えてきたが、新しく造られたスタジアムでもサイトラインが確保されていない事例もある。

利用実態に即したアクセシビリティ確保には、設計・企画段階から障がい者を巻き込んで一緒に考え、創っていく「インクルーシブデザイン」という手法が有効だと思う。今までは障がい当事者のために「たぶんこうだろう」「こうしてあげたほうが便利なはず」という想像の中で作っていた。でも出来上がってみたらとても使いにくいとか、観づらいということが出てくる。

映画館はその最たるもので、当事者からすると、実際にこの場所で車いすに乗った状態で映画を2時間観続けたことがありますか?と聞いてみたくもなる。本当は後方から観たいけど、常に作品は最前列、またはスクリーン正面からは観られない、とか。選択肢が少なくて、行動がせばめられてしまう。

――障がい者手帳を見せれば割引になるということだが、そもそもなぜ割引するのだろう。うがった見方をすると、安くするので観にくい席でも我慢してね、という意味合いもあるのだろうか。

バリアフリー法(「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」、2006年施行)の改正によって、映画館を含む劇場では、客席総数200席の場合、2%以上を車いす席にという基準が設けられている。そのルールを一応クリアするために、ここにとりあえず作りました、と思ってしまうような席もある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アサド政権の治安部隊解体へ、シリア反体制派指導者が

ビジネス

アルバートソンズがクローガーとの合併中止 裁判所の

ワールド

米国務長官、トルコとヨルダン訪問へ シリア情勢を協

ワールド

ブラジル中銀が1%に利上げペース加速、同幅の追加引
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 5
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 1
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 2
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 7
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 10
    無抵抗なウクライナ市民を「攻撃の練習台」にする「…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 9
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中