最新記事
香港

香港でイギリス統治時代の反逆罪が復活「超監視社会」のさらなる闇が忍び寄る

Another Step to Authoritarian Rule

2024年3月7日(木)16時08分
蒙兆達(クリストファー・モン、在英香港民主活動家)
超監視社会の闇が香港に忍び寄る

香港の繁華街で警備に当たる重武装した治安部隊のそばを通る市民(2020年) AP/AFLO

<多くの活動家が一掃された香港で、香港の市民社会と海外団体のつながりを断絶し、市民社会を隅々まで統制する新たな法律が導入されようとしている>

ジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』(邦訳・早川書房他)は、独裁者ビッグブラザーが全市民を監視する全体主義社会を描いた。

思想警察は疑わしい人物を恣意的に逮捕する。人々は国家の敵との共謀を常に疑われている。

現在、香港政府が成立させようとしている国家安全条例案は、オーウェルが描いたような恐ろしい全体主義社会を構築する可能性がある。

この条例は、国家安全に関する法律を香港政府自らが制定すべきことを定めた香港基本法第23条に基づくものだが、国家安全保障の要請をはるかに超える範囲で社会を統制しようとしているように見える。

1月末から1カ月にわたり、一般市民の意見を募る期間が設けられたが、あくまで形だけという印象を拭えなかった。

香港では既に恐怖政治が敷かれており、市民が政府の措置に反対意見を表明する余地は事実上存在しないのだ。

案の定、香港の李家超(ジョン・リー)行政長官は、国家安全条例については既に市民の支持が得られていると述べ、その成立を当然視していることを示唆した。

それにしてもなぜ、香港政府が国家安全条例の成立を急いでいるように見えるのか。

2020年に中国に押し付けられた香港国家安全維持法(国安法)により、治安当局は既に、社会の不満分子を速やかに排除する権限がある。

だが、意見公募のために公開された条例案をよく読むと、その適用範囲が国安法の範囲を大きく超えて、社会の隅々まで政治的統制を図り、香港を一段と権威主義体制下に置く意図が透けて見える。

なにより国家安全条例案は、イギリス統治時代の反逆罪や反乱扇動罪を復活させる(刑罰は当時よりも重い)ことで、香港の政治と社会を厳しく統制する狙いを明確にしている。

実際、近年の香港当局は扇動罪を理由に、言論の自由を規制することが増えてきた。

ワクチン政策を批判したり、児童書を出版したりといったごく普通のことで、市民が扇動罪を犯したとして逮捕され起訴されてきたのだ。

令状なしの捜査が増える?

こうしたイギリス統治時代のルールは時代遅れと見られてきたが、正式に廃止されることはなかった。

それが今、権威主義的な支配者によって、人々の自由を一段と制限する道具として使われている。

さらに香港政府は既存の「社団条例」に基づき、これまで以上に市民社会の監視を拡大しようとしている。

労働組合、企業の取締役会や学校法人理事会などを含む全ての登録団体を、条例に基づき規制しようとしているのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中