最新記事
香港

香港でイギリス統治時代の反逆罪が復活「超監視社会」のさらなる闇が忍び寄る

Another Step to Authoritarian Rule

2024年3月7日(木)16時08分
蒙兆達(クリストファー・モン、在英香港民主活動家)

現行の社団条例では、警察は裁判所の令状なしで社員名簿や通信内容や財務情報などの提出を強制できる。

今回の国家安全条例案ではその範囲が拡大し、個人情報や市民団体の自治が一段と侵害されるようになるのは間違いない。

また、国家安全条例案は、保安局局長(香港政府の治安当局トップ)が、国家安全保障への脅威や外国の政治団体との関係を理由に、特定の組織を非合法団体に指定できるとしている。

一方で「国家安全保障への脅威」や「政治団体」の明確な定義は見当たらず、当局に恣意的に運用される可能性を示唆している。

一方、「外国勢力」の定義が曖昧であることは、香港の市民社会と海外団体のつながりを断絶することになるだろう。

条例案における「外国勢力」には、外国政府だけでなく、海外の政治団体も含まれる。

また、海外に拠点を置きながら、香港の人権状況を監視・擁護する団体も外国勢力と見なされるだろう。

実際、条例案はこのような団体を国家安全保障上の最大の脅威と位置付け、国内団体とのつながりを断とうとしている。

「外国の干渉」や「スパイ行為」の認定基準が緩いことも問題だ。

条例案が成立すれば、中央政府や香港政府の政策に影響を与えるために、外国勢力と協力して誤解を招きかねない情報を流すことも外国の干渉と見なされる。

この規定の何が問題なのかと思うかもしれないが、例えば、香港の市民団体が国連(外国勢力)に人権報告書を提出し、中国政府がこの報告書を「悪意ある中傷」と位置付けた場合、こうした市民団体の活動は違法と見なされるかもしれないのだ。

中国の法律と同じように国家機密の定義が著しく広いため、国家機密の漏洩や国家に重大なダメージを与えたと認定されやすいのも問題だ。

条例案では国家機密漏洩罪は軍事、外交、国家安全保障の機密にとどまらず、技術や経済や社会発展に関する機密にも適用される。

このような漠然とした定義が大きな罠となるのは間違いない。

例えば、コロナ禍での失政や政府幹部の汚職を明らかにした組織やメディアは、国家機密漏洩罪に問われる恐れがある。

外国勢力の脅威を誇張することは、独裁者が強硬な国内政策を正当化するときの常套手段だ。

20年に国安法を成立させたとき、香港政府は19年の民主化運動を「外国勢力」が裏で糸を引く革命だと断罪し、人々の抗議行動を外国の浸透行為と見なした。

だが、外国の影響は口実にすぎない。

国家安全条例を成立させることで、当局が本当に排除したいのは、外国勢力ではないだろう。

真の標的は、香港の人々が一貫して追求してきた民主主義と自由、そして人権という普遍的価値観だ。

From thediplomat.com

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中