最新記事
EU

「最悪の事態に備えるべきだった」...欧州が「トランプ再選」に今からでも真剣に向き合わなくてはならない理由とは?

EXISTENTIAL STAKES

2024年3月6日(水)19時00分
フィリップ・ルグラン(元欧州委員会委員長経済顧問)
トランプとプーチン

トランプとプーチンの「蜜月」も復活か(2018年7月) KEVIN LAMARQUEーREUTERS

<バイデン大統領の再選でアメリカが防衛のコミットメントを維持するという最善のシナリオを期待するのではなく、2016年には最悪の事態に備えなければならなかった>

2025年にトランプ前大統領がホワイトハウスに戻ってくる可能性は、ヨーロッパの安全保障を重大な脅威にさらしている。ヨーロッパ諸国は手遅れになる前に、ロシアのプーチン大統領の失地回復戦略に基づく侵略に対して防衛を強化しなければならない。

アメリカが欧州防衛のコミットメントを放棄するという脅しを、無節操なトランプが行動に移す見込みは非常に憂慮すべきもので、大半のヨーロッパ首脳は現実から目を背けようとしている。

しかし、トランプが共和党の候補指名を獲得することはほぼ確実となり、その復権は現在進行形の危機だ。

トランプは在任中、NATOから脱退すると繰り返していた。同盟国が攻撃を受けてもアメリカは防衛しないと宣言するだけで、ヨーロッパの安全保障は骨抜きになる。

実際、NATO加盟国がロシアの攻撃を受けたとしても拠出金の負担が足りない国なら、ロシアに「好きなようにするよう伝える」と在任中に語ったことを、トランプは自ら明かした。

ヨーロッパは、バイデン大統領の再選でアメリカが防衛のコミットメントを維持するという最善のシナリオを期待するのではなく、最悪の事態に備えなければならない。

理想を言えばこうした準備は、14年にプーチンがクリミアを併合した後か、16年にトランプが当選した後に、もっと早く始めるべきだった。

10年前に下地ができていれば、EUは今頃、強化された共同防衛研究や、より効率的な軍事調達戦略の恩恵を受けていたかもしれない。少なくともロシアがウクライナに侵攻してからの2年間で、もっと多くの国がポーランドやエストニアのように国防予算を大幅に増やすべきだった。

ヨーロッパは今こそ行動する責任がある。まず、ウクライナへの戦争支援を強化しなければならない。米下院の共和党多数派は、614億ドルの追加支援を含むバイデン政権の法案に反対している。

今のところ、ウクライナで敗北しなければ、プーチンが他のヨーロッパ諸国を攻撃しようとすることは明らかだ。既にクレムリンは極右・極左の反EU政党に資金を提供し、選挙の際に偽情報をソーシャルメディアで拡散して、ヨーロッパの民主国家を不安定化させようと動いている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

逮捕されたイランのノーベル平和賞受賞者、激しい殴打

ビジネス

英財務報告評議会、EYのシェル監査を規則違反で調査

ビジネス

MUFG、インドのノンバンクに5000億円超出資へ

ビジネス

ドイツ輸出先、中国が7位に後退へ 15年ぶりトップ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中