最新記事
安全保障

寸前まで検討されていた「アメリカの北朝鮮攻撃」、なぜ攻撃を断念したのか?

The Attack That Wasn’t

2024年2月6日(火)18時25分
A・B・エイブラムズ(米朝関係専門家)

このときポール・ウォルフォウィッツ国防副長官は、「アメリカの力に対する挑戦を全て終わらせたい」、これらの国々に対する攻撃は全て、この目的を達成する手段と見なされる、と語った。

「これらは戦争計画だった」と、ウィルカーソンは強調した。「私はある大佐に、概念的な計画なのか、それともTPFDD(時系列兵力展開データ)なのか、つまり、おそらく実行されるものなのかと聞いた」。大佐はこう答えた。「完全にTPFDDだ」

北朝鮮は優先的な標的だったが、他の標的に比べて軍事力が格段に優れていたため、攻撃計画は無期限に延期された。それについてウィルカーソンは次のように語る。

「対北朝鮮の計画をブリーフィングした米空軍将官は『悟っていた』ようだ。彼は『死傷者は10万人に達し、3万人は最初の30日間で、アメリカ人も多いだろう。韓国の首都ソウル地域には非戦闘員のアメリカ人が25万人いる』と言った。『これは後回しにして、中東のたやすい目標からやるべきではないか』と」

2003年3月のアメリカ主導のイラク侵攻は、大量破壊兵器の開発という捏造された証拠に基づいて正当化された。その意味で、北朝鮮はより説得力のある標的だった。既に相当量の化学兵器を保有していただけでなく、そのわずか2カ月前の2003年1月には、核拡散防止条約(NPT)から脱退を表明していた。

北朝鮮がNPTを脱退表明する1カ月前、アメリカは1994年の米朝枠組み合意に基づく重油供給を中断した。この協定は、北朝鮮が核施設の稼働を制限する代わりに、アメリカは民生用の「拡散防止」の核プログラムを支援し、署名後3カ月以内の制裁緩和を含む、政治的・経済的関係の正常化を実現するというものだ。これには経済関係の正常化に向けた重要な一歩である、対敵通商法の北朝鮮への適用を除外することも含まれていた。

しかし、暫定的なエネルギー供給はしばしば遅れ、米政府は8年間、約束の大部分を守らなかった。その事実は、1998年の米上院公聴会や、協定の首席交渉官だったロバート・ガルーチによって繰り返し指摘されている。

米朝枠組み合意の崩壊が北朝鮮のNPT脱退を引き起こし、同国の核兵器開発を禁じていた2つの条約が排除された。当時の推定では、北朝鮮は2000年代の終わりまでに核兵器を保有する可能性があった。そのため、アメリカ政府の主な目的が自国の影響圏外の国々が核能力を獲得するのを防ぐことであったとすれば、2003年前半には(他の全ての要素が同じなら)北朝鮮が優先的な攻撃対象になっていただろう。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中