最新記事
医療

あのモデルナが開発、mRNA「がんワクチン」...死亡リスク65%減少は「さらに改善する」とCEOは自信

CANCER VACCINES

2024年1月25日(木)17時28分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)
癌ワクチンが開発中

PETER STARK/GETTY IMAGES

<死亡リスク65%減の報告も。人体に備わった免疫を利用して癌性腫瘍を破壊する仕組みのmRNA癌ワクチンの開発に期待が高まる>

研究者が癌に関する基礎科学の地平線を広げるなか、バイオテクノロジー企業は人体に備わった免疫を動員し、癌と戦おうとしている。

なかでも期待を集めるのが癌ワクチンの開発だ。まずAI(人工知能)を使い、免疫系に認識可能な癌性腫瘍の変異を特定。その上で免疫系が癌性腫瘍を見つけて破壊できるように、患者ごとにカスタマイズした個別化癌ワクチンを作る。

2017年、モデルナは製薬大手メルクと連携し、固形腫瘍を標的とする個別化癌ワクチンの臨床試験を始めている。ワクチンを設計するには患者の正常細胞と癌細胞のDNAの塩基配列を調べ、2つを比較して癌細胞に見られる数百~数千の変異を特定する。続いて強い免疫反応を引き起こす可能性が最も高い34種の変異を、AIを使って選ぶ。

AI学習用の生検サンプルは、大学の医療機関が提供する。AIには免疫学の原理を学ばせ、免疫細胞が最も認識しやすいタンパク質とアミノ酸の特徴を理解させる。

この情報を基に作られた個別化メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、体内に入ると免疫反応を誘発。34種の変異のいずれかが見られる細胞を攻撃するよう設計された免疫細胞を体は大量生産する。

新型コロナウイルスのワクチン開発にも使われたmRNAは、細胞に指令を出して腫瘍の目印となるタンパク質を産生させる。十分な量のタンパク質が作られると、免疫系はこれを検知して異物と認定。異物を見つけて破壊する免疫細胞を作り始めるのだ。

転移した癌細胞まで消滅

開発の土台にあるのは「免疫は癌に勝てるという確信」だと、モデルナのステファン・バンセルCEOは本誌に語る。確信の根拠は、健康な人の免疫系は癌細胞が腫瘍になる前に殺しているという単純な事実だ。

「20年前は分からなかったが癌はDNAの病気であり、DNAの変異が原因だ」と、バンセルは説明する。「癌はそれが発生した部位の病気だと、昔は考えられていた。だが腫瘤ができた臓器を見ただけで、その癌を発生させた仕組みは解明できないし、どんな遺伝子が転移や進行に関係しているかも分からない」

6月、モデルナとメルクはステージ3および4の悪性黒色腫患者を対象とした臨床試験についてmRNAワクチンと抗悪性腫瘍剤キイトルーダを併用した場合、遠隔転移や死亡のリスクが65%減少したと報告した。

食と健康
「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社食サービス、利用拡大を支えるのは「シニア世代の活躍」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ

ワールド

イタリアが包括的AI規制法承認、違法行為の罰則や子

ワールド

ソフトバンクG、格上げしたムーディーズに「公表の即
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中