最新記事
ウクライナ情勢

諦めか「古典的防御策」か? 補給ルートを自ら断つ、ロシアの意図不明な「巨大ダム破壊」の謎

Is Putin Giving Up Crimea?

2023年6月13日(火)13時15分
イザベル・バンブルーゲン、ジョン・ジャクソン

230620p26_KMA_02.jpg

ダム決壊による洪水からゴムボートで避難した人(6月7日、ヘルソン州) AP/AFLO

一方のロシア政府は、クリミア半島はいかなる和平協定でもロシアの一部にとどまると主張。プーチンが昨年9月以降に違法に併合したウクライナの4つの地域も、ロシアの一部にとどまると言い張っている。

ウクライナ側は、カホフカ・ダムの爆破はロシアの仕業だと主張する。ゼレンスキーはオンラインで発した声明でこう語った。

「ロシアが意図的にカホフカ・ダムを破壊したという事実は、ロシア軍が既にクリミア半島から逃げ出す必要性を認識していることを示している」

ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ダムの破壊はウクライナ側の仕業だと主張。クリミアへの水の供給に影響を及ぼす可能性があると認め、ウクライナの狙いはクリミアから水を奪うことだと語った。

「クリミアでは今後長いこと、水の供給が遮断されるかもしれない。ウクライナの一部当局者がそう言っている」と、欧州政策分析センター(ワシントン)のエリナ・ベケトワ研究員は本誌に語った。

「ロシアが任命したクリミア自治共和国のセルゲイ・アクショーノフ首長は、北クリミア運河の水位がさらに低下する危険を認めている。ほかにも水源があるとはいえ、クリミアが飲料水不足に直面する可能性はある」

多くのアナリストは、ダム爆破は単純に軍事的な理由で行われたものではないかと考えている。ロシアが水力発電所とダムを破壊した可能性がある理由について、ベケトワは「ウクライナ軍が(ダムのある)ドニプロ川の東岸に到達できないようにして、反転攻勢を阻止しようとした可能性がある」と指摘する。

米陸軍のスティーブン・トゥイッティ退役中将も、プーチンがウクライナ軍の動きを鈍化させるための攻撃を命じた可能性があると言う。

「戦争では得てして、こういうことが起こるものだ。ダムを爆破した結果、水が農地や内陸に流れ込み、地域一帯がぬかるんでいる。装甲車両が泥にはまり、一帯を横断できなくなる」

そのため軍は「整備された道路を使うしかなくなる」と、トゥイッティは言う。「農地での攻撃もできない。(ダムを決壊させることで)ウクライナ側の進軍ルートを制限することになる」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米議会、「麻薬運搬船」攻撃の無編集動画公開要求 国

ワールド

財政信認失うことないよう、国債管理政策「さらに適切

ワールド

トランプ氏、メキシコに5%追加関税警告 水問題巡り

ワールド

トランプ氏、オバマケア巡り保険会社批判 個人への直
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 10
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中