最新記事
ウクライナ情勢

諦めか「古典的防御策」か? 補給ルートを自ら断つ、ロシアの意図不明な「巨大ダム破壊」の謎

Is Putin Giving Up Crimea?

2023年6月13日(火)13時15分
イザベル・バンブルーゲン、ジョン・ジャクソン
カホフカ・ダム

カホフカ・ダムを破壊したのがロシアかウクライナかは分からないが、双方にとって大打撃になりかねない(6月7日) AP/AFLO

<大地を水浸しにしてクリミア半島を渇水に追い込む、暴挙の目的は反転攻勢の阻止か、「焦土作戦」か。読みきれない意図について>

ウクライナ南部にあるカホフカ水力発電所の巨大ダムが、6月6日に爆破された。アナリストからは、なぜロシアが(これがロシアの仕業だとすればだが)クリミア半島に破壊的な打撃をもたらしかねない行動を取るのかと、疑問の声が上がっている。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「ロシア帝国」を築くという野望達成の礎だったクリミアに見切りをつけたのか。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領をはじめとする面々はこの可能性を指摘しているが、それとは異なる見方もある。

米ジョージタウン大学の経済学者アンダース・オスルントは今回のダム爆破を、イラク大統領だったサダム・フセインによる油井破壊になぞらえる。

フセインは湾岸戦争中の1991年、クウェートからの撤退を余儀なくされたイラク軍にクウェートの油井への放火を指示したといわれる。

今回のダム破壊は「失ってしまうことが明らかな領土を破壊しようという考え方」だと、ロシアとウクライナの両政府で経済顧問を務めた経験を持つオスルントは解説する。「諦めがもとになっている行動だと思う。攻撃というよりは負け惜しみだ」

さらにオスルントは、カホフカ・ダムは重要な運河に水を供給しており、クリミア半島を維持する上で大きな役割を果たしていると指摘する。

「クリミア半島に必要な水の85%を供給する北クリミア運河は、カホフカ・ダムから取水している。このダムがなくなったら、クリミアはいずれもたなくなる」

水の供給に重大な影響

オスルントは、このダムの爆破はクリミアの農業を破壊しかねないとも語る。北クリミア運河の水の大半は農業や工業に使われ、飲料水に回るのは約2割だ。

クリミア半島は2014年、プーチンによって一方的にロシアに併合された。昨年2月から続くロシアの侵攻に対して、ウクライナが反撃の勢いを得るようになると、ゼレンスキーは停戦条件の一部として「クリミア半島はウクライナの領土と認識されるべきだ」と口にするようになった。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中