最新記事
大統領選挙

ほぼあらゆる国の大統領選挙は大接戦...本当にいいことか? 有権者が大きく二分される理由とは

NO CLEAR MANDATES

2023年6月8日(木)13時00分
ダン・ペリー(戦略コミュニケーション会社「サンダー11」のマネージングパートナー)
マクロン(左)とルペン

マクロン(左)とルペン DILARA ACIKGOZーREUTERS

<近年の米大統領選など僅差の結果になる選挙が多いが、それでは勝者が有権者の真の負託を受けたとは言いにくい>

どうして、世界のほぼあらゆる国で大統領選挙の結果が大接戦になるのだろうか。この点は、今日の世界の謎の1つと言っていいだろう。

5月のトルコ大統領選では決選投票で独裁的な現職大統領が再選を果たしたが、対立候補との得票率の差はごくわずかだった。このように、選挙では有権者の判断がほぼ真っ二つに割れることが多い。

選挙結果が僅差になることは、民主主義の勝利だと考える人もいるかもしれない。確かに、そのようなケースもあるだろう。しかし、有権者の約半分の支持しか得られずに政権に就いた指導者は、有権者の真の負託を受けたとは言いにくい。

今日の世界では、権威主義が広がりつつある。ファシズムには『我が闘争』、共産主義には『資本論』があったが、権威主義には『権威主義者宣言』の類いがあるわけではない。世界の多くの国々でいつの間にか権威主義が頭をもたげ、有権者の心をつかみ、自由民主主義を揺るがし始めているのだ。

自由民主主義は、多数派による支配と同じくらい、社会の開放性、人権の擁護、少数派の保護、権力の抑制を重んじる考え方だ。権威主義は、そうした自由民主主義の理念を嘲笑する。権威主義は、私たち誰もが持っている邪悪な部分に付け込んで、閉鎖的な社会、身内びいき、強権支配の快適性と予測可能性により人々を引き付けるのだ。

このような権威主義者たちが僅差で選挙に勝利すると──そして僅差で敗れた場合は一層──厄介なことが起きる。その国に根深い社会的・経済的分断が存在し、右派のポピュリスト政治家がいうなれば社会の下層階級に支持されている場合は、問題が一層増幅される。そのような国では、右派勢力が富の再分配を主張するという皮肉な状況が生まれる場合も多い。

53%で地滑り的な圧勝?

最近、大統領選の得票がほぼ半々に割れた例としては、先のトルコ大統領選を挙げることができる。5月28日の大統領選決選投票では、独裁的な現職のレジェップ・タイップ・エルドアンが52%の得票率で再選を決めた。野党統一候補であるリベラル寄りのケマル・クルチダルオールの得票率は48%だった。

イスラム主義者のエルドアンは、これまでトルコに途方もなく大きな害を及ぼしてきた。今日のトルコでは、軍人や政治家や市民活動家やジャーナリストが相次いで投獄されていて、裁判所は政権の顔色をうかがい、メディアは大統領の盟友によって運営されている。エルドアン政権の下で、トルコ経済に及んだ打撃も計り知れない。それでも、トルコ国民のおよそ半分は、それでも構わないと思っているようだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国、ウォン安への警戒強める 企画財政相「必要なら

ワールド

マクロスコープ:意気込む高市氏を悩ませる「内憂外患

ワールド

ドイツ、連邦・州のドローン防衛を統合 ベルリンに初

ビジネス

次期FRB議長は「大幅利下げを信じる人物」=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中