最新記事
アメリカ社会

行くも戻るも地獄...アメリカは「貧者の道」

U.S. Border Chaos

2023年6月8日(木)15時55分
ニック・アスピンウォール(ジャーナリスト)
アメリカの難民申請者

Jose Luis Gonzalez-REUTERS

<南米から陸路で新天地を目指す決死の逃亡者に、ギャングと感染症とバイデン政権の新規制が立ちはだかる。「タイトル42」の失効後のアメリカはどうなるのか?>

アレックス・タルキ(31)と妻は、何としても5月11日までにアメリカとの国境に到着したかった。

その日をもって「タイトル42」(コロナ対策を名目にトランプ前政権が導入した不法移民の即時強制送還措置)が失効するのだが、代わりにもっと厳しく、難民申請を困難にする仕組みが導入されると聞いていたからだ。

タルキはエクアドルの首都キトで食堂を経営していた。よくあることだが、地元のギャングから月々の「見かじめ料」を要求されたので逃げ出すことにした。「命が危ない。払わなければ殺される」からだ。そうであれば難民申請の資格はある。

夫妻は3月に悪名高い「ダリエン地峡」を渡った。コロンビアとパナマの国境地帯にあり、南米大陸と北米大陸を陸路で結ぶ主要なルートとなるが、密林の道なき道で、恐怖の無法地帯でもある。

夫妻は既に、持ち金の約1500ドル(約20万円)を全て奪われていた。だから案内役のギャングに高い金を払って安全なルートを行くゆとりはなく、代わりに5日がかりの危険な行程を選んだ。

途中で、夫妻は川の水をじかに飲んだ。そのとき2匹の寄生虫が妻の体内に入り、脳と胃まで到達した。ダリエン地峡を抜けた4日後、妻は昏睡状態に陥った。そして赤十字のボランティアにより、パナマ市の病院へ運ばれた。

もうすぐ退院できそうだ、とタルキは言った。しかし再びアメリカを目指す旅に出ても、その先は見えない。

1944年に制定されたタイトル42は、危険な感染症の国内流入を防ぐため、感染の疑われる人の入国を禁止する規則だ。トランプは新型コロナ対策を口実にこれを発動し、移民の抑制に利用してきた。

それが失効したのだが、バイデン政権の導入する新規制の下ではもっと条件が厳しくなりそうだ。

現時点で公表されている情報によると、例えばメキシコやパナマなどの第三国を経由してくる場合、まずはその第三国で庇護を申請していない限り、アメリカでの申請はできない。

ただし保護者に連れられていない未成年者は例外。米税関・国境取締局(CBP)の入国手続きアプリ「CBP One」で事前申請し、入管事務所での面接を予約した人も例外となる。

対談
為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 セカンドキャリアの前に「考えるべき」こととは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中