最新記事

トルコ

イスラエル元外相がみるエルドアン再選...「現実主義外交に慣れよ」

TURKEY’S PRAGMATIC ISLAMIST

2023年6月5日(月)14時10分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
エルドアン

REUTERS/Umit Bektas

<ブリンケン米国務長官はトルコを「難しい同盟国」と表現したが、まさにそのとおり。エルドアンは確かに難しい同盟相手であり、3期目もその外交姿勢が変わることはなさそうだ>

トルコ大統領選でエルドアン現大統領が史上初の3選を果たしたことは、トルコの外交にどのような影響を及ぼすのか。答えは「それほどの影響はない」というあたりだ。

仮に野党候補が勝利していても、トルコ外交はスタイルが変わるだけで、内実に変化はなかっただろう。今やトルコにとってはNATO加盟国としての義務を果たすことと、ロシアや中国と協力関係を結ぶという課題との間で、実利重視のバランスを取ることが避けられなくなっている。

エルドアンはイスラム主義の短気な独裁者かもしれないが、外交においては現実主義者だ。国際情勢が変化するなか、西側と敵対する勢力とも関係を結ぶという両面作戦が国の利益になると考えている。

しかしエルドアンは、欧米を敵に回すことが利益にならないことも知っている。NATOを離脱してヨーロッパから距離を置き、ロシアと中国が率いる「反帝国主義」の陣営に加わるという選択肢は彼にはない。

エルドアンが2003年に首相に就任して国を率いるようになって以降、トルコはヨーロッパとアジアの文明の交差点に位置する自国がイスラム世界のリーダーとして振る舞うべきだと信じ、約半世紀ぶりに中東への関与を再開し始めた。

10年に中東で民主化運動「アラブの春」が起きると、エルドアンはイスラム主義を外交政策のツールとして利用した。シリア内戦では、イスラム主義の反政府勢力「自由シリア軍」を支持。さらに中東の勢力地図を塗り替えるというビジョンを共有していた過激派組織「イスラム国」(IS)とも、短期間だが手を組んでいた。

ところが13年にエジプトでクーデターが起き、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」の最高幹部だった大統領が追放されたことを受けて、エルドアンは外交政策の見直しを余儀なくされた。世俗的な勢力がイスラム主義を打ち負かすために、どれだけ必死に戦うかを目の当たりにしたためだ。

かつてエルドアンの外交政策顧問を務めたアフメット・ダウトオールが16年に首相を辞任すると、エルドアンは大統領の権限強化に乗り出し、ここからトルコの外交政策は変わり始める。19年にはトルコと国境を接するシリア北部に侵攻し、「緩衝地帯」を設置。イスラム国の勢力を国境から遠ざけるという名目だったが、実際はクルド人の自治区樹立を阻止することが目的だった。クルド人はイスラム国との戦いでアメリカの重要な同盟相手だったため、エルドアンの動きはアメリカをいら立たせた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は5日続落、米金利高を警戒し700円安 5

ビジネス

NTTドコモ、マネックスGと資本業務提携 持株会社

ワールド

台湾総統選、中国に「多様な干渉手段」 国家安全局長

ビジネス

午後3時のドルは149円前半で小動き、介入警戒感で

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:2023年の大谷翔平

特集:2023年の大谷翔平

2023年10月10日/2023年10月17日号(10/ 3発売)

WBCは劇的優勝、ケガで無念の離脱、そして日本人初本塁打王へ。激動の大谷イヤーを現地発の記事と写真で振り返る

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    【独自】祝ホームラン王!「最強の戦友」マイク・トラウトに聞く、大谷翔平の素顔

  • 2

    複数のドローンがロシア西部「ミサイル工場」を攻撃、その閃光と爆音を捉えた映像

  • 3

    メドベージェフが発した核より現実的で恐しい戦線拡大の脅し

  • 4

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 5

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 6

    ロシア軍スホーイ戦闘機など4機ほぼ同時に「撃墜」され…

  • 7

    中国不動産バブル崩壊で地方役人は戦々恐々

  • 8

    中国・秦剛前外相の失脚は本当に女性関係のせいだっ…

  • 9

    処理水批判の中国から日本に観光客は来て...いる? …

  • 10

    台湾初「国産潜水艦」がついに進水...中国への抑止力…

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    【独自】祝ホームラン王!「最強の戦友」マイク・トラウトに聞く、大谷翔平の素顔

  • 3

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 4

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 5

    本物のプーチンなら「あり得ない」仕草......ビデオ…

  • 6

    エリザベス女王も大絶賛した、キャサリン妃の「美髪…

  • 7

    ワグネル傭兵が搭乗か? マリの空港で大型輸送機が…

  • 8

    複数のドローンがロシア西部「ミサイル工場」を攻撃…

  • 9

    NATO加盟を断念すれば領土はウクライナに返す──ロシ…

  • 10

    ロシア軍スホーイ戦闘機など4機ほぼ同時に「撃墜」され…

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 3

    【独自】祝ホームラン王!「最強の戦友」マイク・トラウトに聞く、大谷翔平の素顔

  • 4

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 5

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 6

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 7

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部…

  • 8

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中