最新記事

ウクライナ戦争

ロシアが戦争に勝てていない理由は、プーチンの「矛盾」にある 小泉悠×河東哲夫

THE END OF AN ENDLESS WAR

2023年4月6日(木)21時25分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部

230411p18_TDN_MAP_01.jpg

となるとこの先、勝てはしないんだけど、ずっとウクライナに対して嫌がらせを続けるかもしれない。「傷つける力」という考え方が安全保障にあるんですけど、傷つけ続けて、失血死させる、あるいはもう傷ついてうんざりして音を上げるのを狙っていく。

もしこの春の東部攻勢でロシア軍が決定的な戦果を上げられなければ、こういう戦略に切り替えようとするのではないか、という感じがしますね。

■河東 そういうなかで西側がやりすぎるとそのロシアの国内世論をかき立てちゃうわけですよね。プーチンも(セルゲイ・)ラブロフ外相も、この戦争はロシアじゃなくて西側が仕掛けてきたんだと言い始めた。プロパガンダです。そういうことをラブロフがインドで言ったら居並ぶ聴衆にあざ笑われた。

ロシアの国民も同じで、これは西側が仕掛けてきた、ロシアという祖国を守るための戦争だという当局のプロパガンダにはまだ納得してないでしょう。でも西側が本当に仕掛けてくると、そこはまた危ないことになると思います。

■小泉 西側が仕掛けるっていうのはその場合どういう事態ですか?

■河東 アメリカ軍の兵士が現場に出てくるとか、そういう状況でしょう。

■小泉 やっぱそれは確かにアメリカも絶対回避したいと思うでしょう。ロシア人の本当の防衛意識に火付けてしまったときって、手付けられないじゃないですか。第2次大戦におけるソ連の頑張りというのは本当にみんなよく知っているわけだけど、それは絶対にしたくない。

ただ戦車を送ることは決めたので、米軍が出て行かない範囲内でまだ支えることはしっかりやるんだろうと思います。

戦争が始まった直後に、アメリカの(シンクタンク)アトランティック・カウンシルの安全保障専門家たちがリスクを取ることのメリットと、どのぐらいまでやるのかについてマトリックスを作っています。例えば米軍の部隊を送ることはしないけど、武器援助をポーランドで受け渡すんじゃなくて、西部リビウに直接アメリカの輸送機を降ろして渡すということを象徴的にやってみせる。リビウ・ランディングシナリオです。

同じジャベリン対戦車ミサイルを1000発渡すのでも、ポーランド側で渡すのではなくて、ウクライナ領内側まで持っていって渡す。これは一種のエスカレーションで、そこまでやった場合に果たしてロシアの世論がめちゃくちゃ沸騰するかどうか。

そのぐらいまでだったら、私はロシア人をそんなに怒らせず、なおかつ非常に象徴的なデモンストレーションとなる可能性があると思うんです。送る武器の種類だけではなくて受け渡し方も、これから何らかのエスカレーションがあるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能

ビジネス

債券・株式に資金流入、暗号資産は6億ドル流出=Bo

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇用者数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中