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シリア北西部への支援を難しくするアル=カーイダの存在......トルコ・シリア地震発生から3週間

2023年3月6日(月)14時40分
青山弘之(東京外国語大学教授)

「解放区」の正統な代表となるための宣伝

ジャウラーニーの発言は続いた。英日刊紙『ガーディアン』は2月14日、ジャウラーニーの以下のような発言を掲載したのである。


地震発生当初から、我々は国連に支援を求めるメッセージを送っていた...。しかし、残念なことに、我々の捜索救出チームへの支援は届かなかった、またこの危機と闘うための特別な支援もなかった。

アサド体制(シリア政府のこと)が支援を届けるということは信用できない。人道支援は、シリア北西部を経由して、推計530万人が家を失った被災地に送られねばならない。

国際社会は我々の再建に関与する必要がある。

イドリブ県のシリア救国内閣の各省の高官のみが、国際社会のアクターと連絡を取り合っている。

バッシャール・アサド体制とロシア人は、過去12年間、この地を震災地に変えた。

我々は自分たちの民のニーズに対応する政府を建設した。我々には統治を行い、民を支えることができる。だが、この地にはさらに多くのものが必要だ。

ジャウラーニーの為政者、あるいは国家元首のような振る舞いや発言は、シャーム解放機構がテロ組織としての汚名を返上し、国際社会、とりわけ西側諸国に「解放区」の正統な代表として認められることを狙ったものだということは誰の目からも明らかである。

事実、シャーム解放機構は、2月24日に、米主導の有志連合がアティマ村近郊を無人航空機(ドローン)で攻撃し、新興のアル=カーイダ系組織であるフッラース・ディーン機構のイラク人司令官ら2人を殺害するのに合わせるかたちで、同地でアフガニスタン人2人を含むイスラーム過激派7人を拘束し、アル=カーイダ系組織でありながら、アル=カーイダ系組織に対する「テロとの戦い」の協力者を演じようとしている。

だが、こうしたシャーム解放機構の横暴に対して、「解放区」、あるいはそこへの支援に携わる個人、あるいは組織が批判の声をあげることは稀有である。そのことは、同地が自由や尊厳とは無縁の閉塞的な空間であることを示している。

シリア北西部への支援は急務だ。あらゆる手段と経路を通じて支援の手を差し伸べなければならない。だが、テロリストが存在を強めれば、それは支援の機運を損ねることにつながる。

シャーム解放機構の支配地への支援だということを包み隠さず、そのうえで、なおかつ支援が必要であることを丁寧に説明していくトランスパレントな姿勢が、同地の人々の困難な立場を理解し、彼らに寄り添ううえで求められている。

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