最新記事

日本

ドミニク・チェンが語る、2050年のSNS・コミュニケーション・自律分散

THE BEST WAY IS TO INVENT IT

2023年2月15日(水)16時48分
ドミニク・チェン(情報学研究者)

社会資本をもっている高齢者と高齢者予備軍が若い世代に権力を委譲して、自分たちでなく、次世代の都合を考えて行動しなければならないと思います。これは構造的な問題です。わたし自身、小さい子供と生きていて、また、大学で若い人たちと活動をしていて、近い将来にジェロントクラシーに加担しないようにするにはどうすればよいのかと考えさせられます。高齢者に権力が集中している状態を解消して、若い人たちがより自律的に自己決定して自分たちやさらに次の世代のための行動や政策を考えられる社会にならなければいけないと強く感じます。

そのために為すべきことは実に多くの領域にまたがっているでしょう。わたしは情報技術とコミュニケーションを専門に研究していますが、この問題を考える上で社会的コミュニケーションは重要な分野だと思います。というのも、これからの社会にあっては、現実像を共有するために、何が真実なのかについてに最低限の合意形成をしていかないといけないからです。

――SNSの分野ではどのような形で問題が表面化していますか?

SNSはますます多くの人にとってニュースの最初のタッチポイントとして機能していますが、そこではフェイクニュースや真偽の判別がつかない強い主張が渦巻き、コロナ禍や戦争、政治の問題でわたしたち全員を振り回しています。正常な判断ができていない大人たちを目の当たりにしている今の20代はすごく混乱しているだろうと思います。そうなると無関心になるか、強烈に分かりやすい主張に身を委ねるかの両極端になってしまいかねません。

今、SNS上では政治家からインフルエンサーまでが、自分にとって都合の悪いことはフェイクだと言って一定の支持を得る方法を共通して採っています。それを見て子供たちが育つと、強烈な主張をして注目を集める「アテンション・エコノミー」が、ある種の勝ち筋だと思われてどんどん強化されていってしまうでしょう。

プラットフォーマーも広告収益を上げるため、刺激の強い情報を流せば流すほど儲かる構造に甘んじてきました。ページビューを稼ぎ、注目を集めるために利用者の滞在時間を増やすようなSNSをはじめとしたインターネットの構造、ビジネスモデルを変えていかないと2050年もわれわれは同じことをしていると思います。

イーロン・マスクはツイッターを買収して超ワンマン経営で「表現の自由を担保する」と言っていますが、結局はすごく旧世紀的な、中央集権的なモデルの経営でそれをやろうとしています。マスクも、アップルのスティーブ・ジョブズもそうでしたが、一人に全権を集中させて社員に必死に残業させて世界を変える、というモデルから脱しないと、結局は経験も金もある年上のほうが強い社会から脱却できないと思います。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、人質のイスラエル軍兵士の遺体を返還へ ガザ

ワールド

中国外相、EUは「ライバルでなくパートナー」 自由

ワールド

プーチン氏、G20サミット代表団長にオレシキン副補

ワールド

中ロ、一方的制裁への共同対応表明 習主席がロ首相と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中