最新記事

ISSUES 2023

ニーナ・フルシチョワ「ロシアでも西側でも人々は無能で独裁的な指導者を支持」

WAR AND POPULISM

2023年1月3日(火)09時45分
ニーナ・フルシチョワ
ウクライナ4州の「併合」を祝ってモスクワで開かれたコンサート

ウクライナ4州の「併合」を祝ってモスクワで開かれたコンサート REUTERS

<専制主義と独裁の土壌を育てるのは何か。ポピュリストのゆがんだ統治を受け入れた先にあるのは──元ソ連首相フルシチョフのひ孫ニーナ・フルシチョワが綴る戦争と平和と悪しきポピュリズム>

今のロシアは、私の曽祖父ニキータ・フルシチョフが首相だった頃(1960年代前半)の全体主義国家ではないはずだ。だが悲しいかな、ロシアのDNAには全体主義が染み付いている。あの国の指導者は今も現実をねじ曲げ、どんなに愚かで、あり得ない話でも国民に無理やり信じ込ませる。

ジョージ・オーウェルの『一九八四年』に登場するオセアニア国では「戦争は平和なり」とされたが、ウラジーミル・プーチン大統領のロシアでは「特別軍事作戦」が平和構築の一形態とされている。2022年2月24日に始まったウクライナ侵攻を、ロシアの都会に暮らす一般市民が気にかけることはなかった。ロシア軍の戦車が国境を越えて戦地に赴いても、みんなパーティーに興じていた。まるで、石油と天然ガスの輸出でプーチンのロシアが絶頂期にあった2004年に戻ったかのように。

このシュールな偽りの平和が、ロシア国内では侵攻開始から半年ほど続いた。許し難いことだ。曽祖父が若き日を過ごしたウクライナ、あの美しい大地が爆弾で穴だらけにされ、首都が包囲され、人々が国外へ逃れ、あるいは家族と離れて戦っていたときも、ロシアの人はいつもどおりの生活を送っていた。

大都市にいれば、それなりに経済制裁の影響は感じられた。高級品は店頭から消え、マクドナルドなどは店を閉ざした。それでも娯楽は十分にあった。ソ連崩壊からの30年で、都会の人は素敵なモノや快楽を手に入れていた。戦争はどこか遠くの話(あるいは近すぎて口にできない話)だった。ならばプーチンに任せておけばいい、どうせ彼が全てを仕切っているのだから。みんなそう思っていた。見ざる、聞かざる、言わざるが一番だと。

ただし西側の人にも、優越感に浸る資格はない。国内外に数え切れない紛争の種をまき散らし、罪深い行為に手を染めながら、やはり多くの人は現実から目を背け、快楽の消費に励んできた。そして今は、せっかく民主主義の国々にいながらプーチンと大差ない指導者たちを担ぎ、道徳的に破綻した契約を結んでいる。

恐怖と恥辱と排除の論理へ

ドナルド・トランプ前米大統領が嘘を嘘で塗り固め、人種差別や反ユダヤ主義を口にし、私腹を肥やし、政府機関を腐らせていた4年間、アメリカ人は抵抗しただろうか。もちろん一定の抗議活動はあり、トランプは4年だけでホワイトハウスを追われた。しかし、それでもまだトランプを支持するアメリカ人が大勢いる。とりわけ共和党内ではそうだ。なぜか。彼が最高裁に保守派の判事を3人も送り込み、大企業に有利な規制緩和を進め、富裕層に減税をプレゼントしたからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

週末以降も政府閉鎖続けば大統領は措置講じる可能性=

ワールド

ロシアとハンガリー、米ロ首脳会談で協議 プーチン氏

ビジネス

HSBC、金価格予想を上方修正 26年に5000ド

ビジネス

英中銀ピル氏、利下げは緩やかなペースで 物価圧力を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中