最新記事

ドイツ

「ドイツ帝国は存続中」貴族の末裔「ハインリッヒ13世」クーデター未遂事件、ドイツの悪しき伝統とは?

Take This Seriously

2022年12月13日(火)11時41分
シュテファン・リービッヒ(元ドイツ連邦議会議員)
ハインリヒ13世

連行される「ハインリヒ13世」。計画では国家元首になるはずだった TILMAN BLASSHOFERーREUTERS TV

<議員や裁判官、軍にも信奉者がいる「ライヒスビュルガー(帝国臣民)」は有名な極右の陰謀論勢力。Qアノンとは何が異なるのか?>

12月7日、ドイツの検察当局は政府転覆を企てたとして25人を逮捕、衝撃の事実が浮かび上がった。容疑者らはドイツの古い貴族ロイス家の末裔「ハインリヒ13世」を国家元首にし、右翼の元議員を司法相にすることを計画していたという。

全国で電力網を遮断して政府に対する国民の反感をあおり、その上で連邦議会の議員らを拉致することももくろんでいた。容疑者には元警官や元軍人らが含まれ、多くが重武装していた。

事件の詳細は国外でも大々的に報じられ、アメリカの極右陰謀論勢力Qアノンの関与が取り沙汰されている。だが実は容疑者グループの背後にあるのはドイツではよく知られている別の陰謀論的イデオロギー「ライヒスビュルガー(帝国臣民)」だ。

「ライヒスビュルガー」運動の根底にあるのは、第2次大戦後のドイツ連邦共和国は法的な主権国ではなく、戦勝国である連合国が自分たちの利益追求のために設立したにすぎないという思想だ。ドイツ帝国は今なお存在する、ドイツ基本法(憲法)は長く国内で認められていようとも本当の憲法ではないのだから、というのである。

彼らは独自のパスポートや通貨を発行。さまざまな反政府組織と交流を持ち、反ワクチン、反移民、親ロシアの右翼過激派勢力の連合体である点が非常に危険だ。

極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」という形で連邦議会にもメンバーを送り込んでいる。現在AfDは連邦議会の議席の10%超を占め、世論調査での支持率はそれを上回る。東部の一部の州議会選では、アンゲラ・メルケル前首相のキリスト教民主同盟(CDU)と首位争いを繰り広げている。

連邦議会や軍にも信奉者

現に今回の逮捕者にはAfDのビルギット・マルザックウィンケマンも含まれていた。元連邦議員で現在はベルリンの裁判官。アメリカのQアノン信奉者、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員のドイツ版といったところだ。

2009~21年にドイツ連邦議員だった筆者は、反移民で陰謀論を信奉するマルザックウィンケマンの台頭ぶりに危惧を覚えた。クーデター計画では彼女が司法相になる予定だった。

こうした状況を陰謀論者のたわごとと軽く受け流すべきではない。マルコ・ブッシュマン司法相は「酔っぱらってあらぬことを口走るやじ馬は多い」が、今回は「暴力行為を企てていた」と信じるに足る根拠があるとツイートした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中