最新記事

中国

iPhone工場の騒乱があぶり出したゼロコロナの大矛盾

iPhone Factory Workers Clash With China's Riot Police Over COVID Fears

2022年11月24日(木)19時04分
ジョン・フェン

いつまで続く? 感染発生でロックダウンされたアパートのゴミを収集する防護服姿の職員たち(11月18日、北京)Thomas Peter-REUTERS

<防護服に身を固めた警備員と労働者がもみ合う異常な光景が、習近平の看板政策の行き詰まりを物語る>

中国中部にあるiPhoneの世界最大の工場で、労働者が防護服に身を包んだ警備員と衝突する騒ぎが起きた。バブル方式のコロナ対策で不自由な生活を強いられていた労働者の不満が爆発したとみられる。

騒動が起きたのは、「iPhoneシティー」の異名をとる河南省の省都・鄭州。現場で撮影された動画が11月23日に微博(ウエイボー)、快手(クワイショウ)、抖音(ドウイン)など中国のソーシャルメディアに相次いで投稿され、多くは既に削除されたが、そこには工場敷地内の寮から出てきた数百人の労働者が警備員や警官ともみ合う様子が映っている。

【動画】繰り返す封鎖に怒る大勢の労働者、防護服姿で殴る蹴るの警備員

この工場は、台湾企業のフォックスコン(鴻海科技集団)の中国における生産拠点。20万人以上の労働者を抱え、アップルに加え、グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどテクノロジー大手の受託生産を行なっている。

10月末に鄭州市内で新型コロナウイルスの感染が急拡大したため、地元当局が工場周辺のロックダウンに踏み切り、隔離を嫌った労働者が大量脱出した。そのため深刻な人手不足に陥った工場は先週、組み立てラインの臨時労働者を多数雇い入れたばかりだった。

1人でも感染者が出ると封鎖

主要国が軒並みウィズコロナに移行するなか、「動態清零」(動的ゼロコロナ)を掲げる中国はいまだに1人でも感染者が出るたびに周辺を封鎖するなど厳しい規制を行なっている。冬本番を迎えて新規感染者数が記録的なレベルに達するなか、ゼロコロナをどこまで続けるのか、中国政府の姿勢が鋭く問われている。

ロックダウンで物流が滞り、鄭州の工場の稼働が止まれば、アップルはクリスマス商戦を控え、新型iPhone14の供給不足に頭を抱えることになる。アップルだけではない。今春の上海のロックダウンが物語るように、中国の生産拠点の封鎖は世界経済に甚大な損失を及ぼす。

ツイッターに投稿された動画を見ると、鄭州の工場では22日夜に騒ぎが勃発し、23日に警察が出動するまで混乱が続いたようだ。多数の労働者が敷地内の建物や隔離のための障壁を壊すなどして、警備員と乱闘騒ぎに発展。警備員に取り囲まれ、棒でめった打ちにされたり、殴る蹴るの乱暴をされる労働者の姿も写っているが、撮影された場所や時間、詳しい事情については、本誌は確認できていない。

動画を見る限り、労働者は寮で感染者と同室になったことや、食事が粗末なこと、契約どおりに賞与が支給されないことなどに怒り、抗議活動に踏み切ったようだ。

なかには感染者と並んで作業をさせられたと訴える労働者もいた。だが彼らは感染そのもの以上に、PCR検査で陽性になり、隔離されて働けなくなり、賃金が支払われない事態を恐れているとみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル一時急落、154円後半まで約2円 介入警戒の売

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中