最新記事

ウクライナ戦争

OPECプラスの大幅減産でEUの対ロ制裁にヒビ?

OPEC Decision Could Force Europe to Cooperate With Putin

2022年10月6日(木)18時53分
アナ・スキナー

OPECプラスの閣僚級会合に出席したロシアのノヴァク副首相(10月5日、ウィーンのOPEC本部) Lisa Leutner-REUTERS

<原油価格のさらなる高騰が予想される中、「背に腹は変えられない」と対ロ制裁の緩和に踏み切る国が出てくる可能性も>

OPEC(石油輸出国機構)とロシアなど主要産油国で構成するOPECプラスは10月5日、11月から日量200万バレルの大幅減産を実施する方針を決定した。これによりエネルギー価格の上昇は避けられず、冬を控えて燃料不足に耐えきれなくなったEUの一部加盟国がロシアのウラジーミル・プーチン大統領の狙いどおり、対ロ制裁の緩和に踏み切りかねない状況となった。

EUは3月末にウクライナへの軍事侵攻に対する追加制裁としてロシア産原油の輸入を禁止する方針を発表したが、一部加盟国の反発で協議は難航し、全面的な禁輸には至らなかった。EUの苦境を見かねた米政府はサウジアラビアに原油増産の継続を働きかけてきたが、その甲斐もなく、OPECプラスは世界的な景気の冷え込みを理由に大規模減産で合意。ロシア産原油の輸入を止めた国々は今後さらに燃料不足と価格高騰に苦しむことになりそうだ。エネルギーをはじめ物価の上昇が続けば、国内の政治的な軋轢が高まり、対ロ制裁の継続は困難になる。

対ロ制裁では「EUは必ずしも一枚岩ではない」と、ボストン大学のイゴール・ルークス教授(専門は歴史と国際関係)は本誌に語った。

ロシア寄りのハンガリー

ルークスによれば、多くのEU加盟国は石油禁輸でロシアの外貨収入は途絶え、戦費が底を突くとみて追加制裁を支持した。それらの国々は燃料価格の上昇に歯を食いしばって耐え制裁を続けるだろう。

一方、同じEU加盟国でもロシアと関係が深い国々はロシア産石油への依存度も高く、元々EUの対ロ制裁に非協力的だった。ウクライナへの軍事侵攻に対する非難にも温度差があり、一部の加盟国の指導者はプーチンを擁護するような姿勢も見せてきた。

「同じ旧ソ連圏でもバルト3国などは反プーチンの姿勢が鮮明だが、ハンガリーなどは元々プーチンの懐に取り込まれている」と、ルークスは言う。

ハンガリーのオルバン・ビクトル首相はロシアのウクライナ侵攻に抗議し、即時停戦を呼びかけもしたが、対ロ制裁には参加していない。ハンガリーはロシア産の石油・天然ガスに大きく依存しており、ABCニュースの報道によれば、EUのロシア産石油の全面禁輸は「わが国の安定的なエネルギー供給を破壊し」、自国経済を壊滅させると主張して、最後まで反対し続けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中