最新記事

BOOKS

母は「見た目は大人・頭脳は子ども」。母親の世話と家事に追われたけれど、私は一人じゃない

2022年8月30日(火)16時40分
印南敦史(作家、書評家)

写真はイメージです Wiphop Sathawirawong-iStock.

<未成年の子どもが家族のケアをする「ヤングケラー」が、美談であるはずがない>

「ヤングケアラー」という名称を目にする機会が増えてきた。

数年前、知人がこの言葉に対し「すぐに横文字を使いたがる」などと的外れなことをSNSに書いているのを見て、「なんなんだ、この人は?」と呆れたことがあるのだが、少なくともその頃に比べれば認知度は上がったのだろう。

とはいえ、その意味についてはまだまだ知られていない部分が多いのではないか。そこで、まずは『ヤングケアラーってなんだろう』(澁谷智子・著、ちくまプリマー新書)の著者による定義を引用してみたい。


「ヤングケアラー」とは、家族にケアを必要とする人がいるために、本来大人がすると想定されているような家事や家族の世話を行っている18歳未満の子どもや若者を指す言葉です。
 ヤングケアラーは、慢性的な病気や障害、精神的な問題、高齢や幼いといった理由で看護や介護や見守りなどを必要とする家族の世話をしています。毎日の食事の用意や後片付け、洗濯、ゴミ出し、買い物、きょうだいの世話。ケアの必要な家族の話を聞いたり、元気づけたりするなどの感情面のケア。中には、病院への付き添い、救急車への同乗、自宅での経管栄養のケア、薬の管理、金銭管理をしている中高生もいます。(「はじめに」より)

この解説を読むだけでも、ヤングケアラーと呼ばれる子たちの負担の大きさは想像できるはずだ。

そもそも"18歳未満の子ども"にとっては、日々の勉強や友だちとの交流、遊びなどが人間形成という点において大きな意味を持つ。言い換えればそうした経験は、社会人として成長するための準備だとも解釈できる。

だが彼らは、本来であれば経験すべきそれらのことが経験できないのだ。しかも著者の指摘にもあるように、未成年の子どもが家族のケアをするという行為は「美談」として消費されてしまう可能性がある。

しかし、それは美談であるはずがない。誰からのサポートも受けられず、自分がヤングケアラーであるという自覚を持たないまま(そういう子は少なくないようだ)年齢不相応の責任や作業を負わされているという現実は、それ自体が「あってはならないこと」。にもかかわらず、それが「ある」から問題なのだ。


 子どもは、家族を支えたいと思って自分から家のことをする場合もありますが、他に選択肢がなく、ケアを担わなくてはならない状況に追い込まれることもあります。大人が家の外で仕事をし、家族を経済的に支えている状況では、大人のように働いて稼げない子どもや若者は、家で家事や家族の世話をして貢献することを求められやすい構造にあるのです。経済的なことが優先される感覚はそれぞれの家庭の中にもしっかり根付いていて、大人のように外で稼ぐことができない子どもが必要に応じて「裏方」をするのは「仕方ない」と考える親も多いのでしょう。裏を返せば、日本は子育て世代の大人がそれほど追い込まれている社会であるとも言えます。(36ページより)

しかし、ヤングケアラーが必ずしも「大人が家の外で仕事をしているから、仕方がなく家事を担っている」とは限らず、各人にそれぞれの事情があるのも事実。当然ながら、「こうすれば解決する」というような策があるはずもない。だから問題は複雑なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、一時150円台 米経済堅調

ワールド

イスラエル、ガザ人道財団へ3000万ドル拠出で合意

ワールド

パレスチナ国家承認は「2国家解決」協議の最終段階=

ワールド

トランプ氏、製薬17社に書簡 処方薬価格引き下げへ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中