最新記事

ウクライナ戦争

【調査報道】ロシア軍を「戦争犯罪」で糾弾できるのか

ARE THEY WAR CRIMES?

2022年8月17日(水)17時50分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

220823p28_SHZ_02.jpg

ロシアの爆撃で焼失したキーウ西部の町にある物流施設 JOHN MOORE/GETTY IMAGES

だが、ロシアがやったとは言い切れない。トーチカはウクライナも保有している。

ちなみに米情報機関は、開戦から10日後の3月6日までロシア軍がトーチカを発射した形跡はないとみている。その一方、ウクライナ軍が侵攻初日にドネツク州キロフスコエの標的にトーチカを発射したことは確認されている。

独立系の調査集団ベリングキャットは3月11日、ブフレダル攻撃について「この特定のクラスター弾の使用が確認された唯一の事例」だと述べ、誰が発射したかという問題にさらなる疑問を抱かせた。つまり、ウクライナ軍のトーチカが誤ってブフレダルに落下し、犠牲者を出した可能性を否定できないのだ。

7月1日の夜、ロシアのKH22ミサイルが、黒海沿岸南部のセルヒイフカ村のアパートとリゾート施設2カ所に命中した。この攻撃で民間人22人が死亡、40人が負傷した。

ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は記者団に対し、セルヒイフカ村の爆撃は弾薬庫を標的にした作戦だったと述べた。

しかし現地を調査したアムネスティ・インターナショナルは、周辺にウクライナ兵や武器、その他の具体的な軍事目標が存在する証拠は見当たらなかったと報告している。

無視された弾薬庫の存在

だが米情報機関によると、この村から約3.5キロ離れた場所にはウクライナ軍の弾薬庫があり、衛星画像ではっきりと確認できる(この点は誰も報道していない)。

セルヒイフカの被害は誤爆によるものだった。悲劇であり、性能の悪い兵器を使用した責任はロシアにある。だが弾薬庫があったのなら、ロシア側の「意図」は正当化される。

村を破壊した精度の低いKH22ミサイルは、クレメンチュクのショッピングセンター爆撃と同じ型のミサイルで、50年代後半に設計され、本来は海上の艦艇、とりわけ空母への長距離攻撃を想定している。

最もいい条件の下で、KH22型のミサイルは狙った目標から4.8キロ以内のどこかに着弾すると推定されている。クレメンチュクの攻撃後、イギリスの情報機関はこう報告した。「これらの兵器は......精密攻撃には適さず、ここ数週間、繰り返し民間人に犠牲者を出していることは間違いないと言える」

国際法では「都市や町村の過剰な破壊行為、または軍事的な必要性によって正当化されない攻撃」は戦争犯罪に当たるとされている。

しかし技術的な欠陥(例えばミサイルの精度の低さ)が国際法上の「違反」に相当するかどうかを判断する明確な基準はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中