最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナが求める「勝てるだけの武器」がグローバルな食糧危機を救う

Breaking the Black Sea Blockade

2022年7月14日(木)14時49分
ブライアン・クラーク、ピーター・ラウ(共に米ハドソン研究所上級研究員)

220719p31_UKR_02.jpg

ロシア軍の砲撃で破壊されたウクライナ・ドネツク州の穀物サイロ SERHII NUZHNENKOーREUTERS

歴史を振り返れば明らかなように、フランス革命から「アラブの春」に至るまで、食糧価格の高騰はクーデターや革命、内戦の引き金になってきた。そうでなくとも、食べるものがなければアフリカや中東の国々から大量の難民が流出する恐れがある。

こうしたリスクはアメリカ政府も承知しているが、それでもロシア軍による黒海の封鎖を解除する具体的な行動に出ない。だからウクライナの小麦は途上国に届かない。

ウクライナ軍は海上でも善戦し、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を撃沈したほか、水陸両用艇や哨戒艇も何隻か沈めている。

民生用の衛星画像や米スペースX社の衛星通信事業「スターリンク」を使い、トルコ製の軍用ドローン「バイラクタル」や国産の対艦巡航ミサイル「ネプチューン」、戦術ミサイル「グロム」などを駆使して敵の攻撃態勢を弱めてきた。

6月30日には黒海の要衝スネーク島からロシア軍を排除した。これで島内にネプチューンかデンマーク提供の対艦ミサイル「ハープーン」を配備すれば、ロシアの黒海艦隊には相当な脅威となる。

ただし、この島からミサイルを発射しても、貨物船がオデーサ(オデッサ)からトルコのボスポラス海峡に至るまでの航路(約500キロ)の最初の3分の1までの範囲にしか届かない。小麦を積んだ商船の安全を守るには、もっと長射程の武器が必要だ。

アナス・フォー・ラスムセン前NATO事務総長をはじめ、一部の有識者は米軍かNATO軍の艦艇にウクライナの商船を護衛させるという提案をしている。

だが米バイデン政権は、ロシアとの直接対決につながりかねないとして拒否した。首都キーウ(キエフ)上空の飛行禁止区域設定を拒んだのと同じだ。

NATO軍による護送が困難な理由はほかにもある。仮にもロシア軍の艦艇に攻撃を仕掛けるような事態になれば、欧州の結束が揺らぐのは必至だ。ドイツを含む多くの国にとって、戦線の拡大は越えてはならない一線だ。

そもそも、黒海の玄関口であるボスポラス海峡を支配するトルコが米欧の軍艦の通過を認める可能性は低い。トルコ政府は2月以来、全ての軍艦の海峡通過を禁じているからだ(黒海に常時展開している艦艇の通行は可)。

だが、もっと賢明な方法がある。小麦を積んだ商船の安全を守るために必要なあらゆる武器、とりわけ大型の無人航空機(UAV)をウクライナに提供すればいい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の

ビジネス

アマゾン、豪データセンターに5年間で130億ドル投

ワールド

イラン世界最大級ガス田で一部生産停止、イスラエル攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中