最新記事

中国

右足のない人骨は古代中国「五刑」の犠牲者だった......身の毛もよだつその内容

2022年6月30日(木)18時05分
佐藤太郎

YouTube/Nutty History

1999年、中国の考古学者たちが、右足が欠損した人骨を発掘した。中国内西部、黄河中流域に位置する陝西省の遺跡から発見された、女性の骨......。最新の医学的分析により、彼女は、古代中国で犯罪者の足を切断する刑罰である「ユエ(足切り刑)」を受けていたことが判明した。

「足切り刑」は、帝政期以前の中国で千年近くにわたり、凶悪犯罪を犯した者に下された「五刑」の一つである。「五刑」は、極めて残酷なものであり、有罪とされた人物とその周囲の人々に最も強い肉体的苦痛と精神的苦痛を与えるように設計されている。

中国には、罪と罰を一致させる条文があるが、支配者の個人的な気まぐれや政治的配慮などで、被害者が受ける罰が決まることが多い。

刺青、鼻切、去勢...

「五刑」のうち、最も軽い罰は刺青だ。犯罪者の顔や体の見える部分に彫られ、通常、犯罪の内容や流刑地、強制労働収容所の場所などが記される。これは、目につきやすい形で、生涯にわたって元犯罪者であることを示すものであった。

そして、犯罪者の鼻を切り落とす「鼻切」が登場した。刺青と同じように、被害者は一生消えない傷を負うことになる。しかし、刃物を用い出血を伴うため、鼻切りと次に紹介する2つの刑罰は、傷口からの感染症で死に至るケースも少なくなかった。

「鼻切」の次に重い刑が冒頭で紹介した「足切り」である。時代によって多少違いが見られるが、重罪の場合は右足、軽罪の場合は左足を切断するというように、罪の重さによって切断する足が選ばれた。発掘された女性は30代前半を推測され、重罪を犯したと推測される。

四番目に残虐なのが、生殖機能を永久に失わせる「宮刑(去勢)」。陰茎、睾丸、陰嚢のすべてを切除する。男性器を機能不全にする刑で、家系繁栄を重んじる中国で子孫ができないことは重い恥辱になる。中国の歴史書の生みの親、司馬遷(紀元前145年-紀元前86年)が、武帝を批判した罪で死刑とされたものの、宮刑を受けて命を助けられたのは有名な話だ。


意図的に残虐に「死」を与えた

五刑の最後が「死」である。その方法は、絞殺、首切り、煮る、焼く、ミンチにする、塩漬けにする、など様々であった。「死」に至る過程は、被害者やその家族に最大限の苦痛を与えること、そして他の者にショックを与え犯罪の抑止力になることを狙い意図的に残虐に行われた。

幸いにも紀元前2世紀の漢の時代には、中国社会は発展し、五刑を新しい刑罰に置き換えることが適切と判断したのをきっかっけに数世紀をかけて改善した。新しい五刑は、鞭打ち、鞭打ち、重労働、流刑、死刑だ。死は時代に変わらず究極の罰であったが、異常なまでに残酷な死に方はもうない。

刺青は20世紀初頭の清朝末期まで続いたが、その罰が実行される頻度は大幅に減少した。鼻切や足切りは完全に姿を消した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む LNGの価格下落な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中