最新記事

アメリカ外交

「台湾有事には軍事介入」 バイデンの発言は失言か、意図したものか

2022年5月24日(火)14時15分

バイデン政権はロシアのウクライナ侵攻に際し、ウクライナ側に何十億ドルもの軍事支援を提供するとともに、中国には台湾向けに同じような行動を取ることを考えるなというメッセージを発している。

同時にバイデン政権は、核兵器を保有するロシアとの直接的な衝突が起きることを警戒し、ウクライナ支援の項目には、たとえ大量の殺傷兵器を供与するとしても、米軍の直接関与は入らないとの方針を明確に打ち出してきた。

それでも今回の台湾問題に関するバイデン氏の発言は、米中が衝突する事態を巡る地域の懸念を高めかねない。米国在台湾協会台北事務所(米政府の台湾に対する事実上の外交窓口)所長を務めたダグラス・パール氏は「この発言は地域の安定と台湾の安全を維持する上で、有益だとは思えない」と不安を口にした。

逆効果の懸念

バイデン政権は表向き、「1つの中国」政策から逸脱していないと主張しているが、中国と米国の双方とも台湾への態度は変わってきている。

中国側では、かつてほとんど見られなかった中国空軍機による台湾の防空識別圏(ADIZ)侵入が近年になって劇的に増加。中国政府の台湾に対する口調は一段と厳しくなった。

一方、米政府は台湾との交流を深め、武器売却を継続するとともに、今月には米国務省がウェブサイトにおける台湾の概要説明で、台湾の独立は支持せず自国の一部だとする中国の見解を認める表記がひそかに削除された。

こうした中で米シンクタンク、ジャーマン・マーシャル基金の台湾専門家、ボニー・グレーザー氏は、バイデン氏の発言は、中国を抑止するどころか、その反対の効果を及ぼしかねないと警鐘を鳴らした。

グレーザー氏は「目的は正しいと思うが、米国の政策を巡る混乱が抑止力を損なってもおかしくない。われわれが抑止を目指す(中国の)攻撃を招く恐れがある」と話す。

台湾に関する「あいまい戦略」の廃止を提唱する野党・共和党議員も、バイデン氏の発言が見るからに行き当たりばったりだと追及している。

米保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のディーン・チェン氏は、米政府があいまい戦略を放棄するなら速やかに実行するのが最善だと強調。バイデン氏の発言に触れて「今のままなら、中国に時間的余裕を与えてしまう可能性が出てくる。米国が戦略的な明快さを出す方向にゆっくり進んでいくなら、中国はそうなる前に行動を起こしたくなるのではないか」と述べた。

(Michael Martina記者、David Brunnstrom記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


中国が台湾に侵攻した場合、米国が軍事的に関与する考えを表明したバイデン大統領の真意は? ABC News / YouTube

 


【話題の記事】
・中国の不動産バブルは弾けるか? 恒大集団の破綻が経済戦略の転換点に
・中国製スマホ「早急に処分を」リトアニアが重大なリスクを警告
・武漢研究所、遺伝子操作でヒトへの感染力を強める実験を計画していた



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

配車グラブ、第2四半期にインドネシア同業GoTo買

ビジネス

米ウーバー、第1四半期売上高が予想に届かず 見通し

ワールド

医務総監にミーンズ氏指名、トランプ米大統領が人事差

ワールド

外国人に対するインドの魅力、パキスタンとの衝突でも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 8
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 9
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中