最新記事

ロシア

食洗機のパーツを戦車に搭載 制裁のロシア軍、チップ不足で苦悶

2022年5月20日(金)18時43分
青葉やまと

制裁によってロシア軍はコンピュータチップの入手に苦労している...... REUTERS/Jorge Silva

<国際的な制裁により、ロシアへの技術輸出は7割減少。戦車の補修や精密誘導兵器などの製造に必要な半導体チップの入手が困難になりつつある>

ロシアへの輸出を制限する国際的な制裁措置が、効果をあらわしている。アメリカのジーナ・ライモンド商務長官は5月11日の米上院の公聴会の場で、制裁によってロシア軍がコンピュータチップの入手に苦労していることを明かした。

ライモンド氏は「地上でロシア軍の兵器を発見した際、内部は食器洗い機と冷蔵庫から取り外された半導体だらけだったとの報告をウクライナ側から受けている」と述べ、民生用パーツをやむなく軍事転用している事情を語った。

現在世界的なチップ不足が起きているが、それに輪をかけるように対ロシアでの経済制裁が敷かれている。アメリカ、EU、日本など12ヶ国が対ロシアの輸出品目に制限を導入した結果、技術輸出は現在、70%の減少に至っている。

米ワシントン・ポスト紙によるとライモンド氏は、公聴会での質問に対し、「我々のアプローチは、ロシアへの技術を断つというものであった。軍事行動を続ける能力を損なう技術に関してだ。我々はまさにこれに関して成果を挙げている」と答え、経済制裁が確実にロシアの行動力を奪っているとの認識を示した。

ロシアでチップの供給途絶える

ロシア国内ではほとんどチップを生産しておらず、アメリカなどが規制を敷いた2月下旬以降、禁輸の影響をまともに受ける格好となった。ここ数年ほどパンデミックの影響でチップ不足に喘いでいたところ、侵攻後には半導体生産で世界一を誇る台湾、およびサムスン電子を擁する韓国からの供給も途絶えた。流通量は目にみえて悪化することとなる。

現在残された調達手段は、ほぼ中国のみに限られる。米リパブリック・ワールド誌は、「ロシアの唯一の選択肢は、中国から低級なチップを輸入することだ」と述べ、ロシアの置かれた厳しい現状を論じた。

英インディペンデント紙も同様に、「ロシア軍が西側の技術に依存していることは有名である」と指摘し、「ロシアへの技術の禁輸が同国の地上軍の動きを妨げている」との見方を示している。

商業用機器からも流用

家庭用の食洗機に限らず、本来商業用途の製品からもチップを回収しているようだ。米商務省のロビン・パターソン報道官は、ウクライナ当局からの情報を記者団に対し共有している。それによると、ろ獲したロシア戦車を解体して分析したところ、冷蔵庫ほか商用・産業用の各種機器から転用したパーツが多数発見された模様だ。入手困難となった半導体の数を補っているとみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:USスチール、28年実力利益2500

ワールド

ネタニヤフ氏、恩赦要請後初の出廷 大統領「最善の利

ワールド

ロシア安保会議書記、2日に中国外相と会談 軍事協力

ビジネス

米サイバーマンデー売上高、6.3%増の見通し AI
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中