最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ・ゼレンスキーの演説を支える「38歳スピーチライター」のスゴさ

2022年5月14日(土)16時10分
大門小百合(だいもん・さゆり) *PRESIDENT Onlineからの転載
日本の国会でオンライン演説を行うゼレンスキー大統領

ウクライナのゼレンスキー大統領は日本の国会でもオンラインで演説。日本の政治家たちを惹きつけた。 代表撮影(2022年 ロイター)


ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア侵攻が始まってから連日、オンラインを駆使して世界に支援を呼び掛けている。ジャーナリストの大門小百合さんは「大統領の演説はさまざまなスピーチの手法を駆使し、内容も非常によく練られている。それは、世界から"忘れられない"ための、必死の発信ではないか」という――。


「欲しいのはスイーツではなく武器」

「全ての演説には、政治的意図がある」

ハーバード大学の授業で、クリントン元大統領のスピーチライターだった教授が言った言葉だ。留学中だった当時の私には「そんなものだろうか?」とピンと来なかったが、ウクライナで戦争が始まってからは、あの時の教授の言葉の意味が分る気がしている。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって2カ月。この間、ウクライナがここまで結束を固め、また各国がウクライナを支援しようと動いたのは、ウクライナのゼレンスキー大統領が「演説」という武器をうまく使ったことも、大きな要因の一つだろう。

4月23日、大統領は避難シェルターにもなったキーウの地下鉄駅で、異例の記者会見を行った。そして、アメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官のキーウ訪問を前に「手ぶらでウクライナ訪問はできない。ケーキやスイーツの土産も求めていない。欲しいのは武器だ」と強い口調で支援を求めた。

これらの言葉に込められた政治的意図は、「戦争を終わらせたい」「そのために必要な支援をしてほしい」。大統領はこの目的のため、戦渦の中で、連日のようにカメラの前で人々に語りかけ、欧米、日本の議会や国際機関などで演説し、各国を説得しようとしてきた。

その勢いは、今も止まっていない。人々の共感を呼び、支持を得るためにと考え抜かれたスピーチの数々は、政治家としての「伝える力」を見せつけるものばかりだ。

ゼレンスキーのスピーチライター

ゼレンスキーのスピーチライターは、38歳の元ジャーナリストで政治アナリストのドミトロ・リトヴィン(Dmytro Lytvyn)だという。彼は、イギリスの新聞オブザーバー(Observer)の取材で、「このテーマは、あまり話さないようにしている」と断ったうえで、「スピーチでは、感情が一番大事。当然大統領自身が、その感情の表現と論理構成を担っている」と語っている。

ゼレンスキー大統領の政党「Servant of the People(国民のしもべ)」の政治アナリストだったリトヴィン氏は、戦争当初からウクライナ大統領官邸に住み込み、今では毎日大統領の考えを引き出しているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中