最新記事
移民

イギリスの新しい難民対策は「ルワンダへの片道切符」

'Would You Send Jesus to Rwanda?' British Lawmaker Grilled Over Asylum Plan

2022年4月19日(火)19時52分
カレダ・ラーマン

海を渡る途中で救助され、イギリスのドーバーにたどり着いた移民たち(4月15日)  Hannah McKay-REUTERS

<危険を冒して英仏海峡を渡ってくる難民たちはルワンダに移送して審査を行うが、難民申請が通ってもルワンダで暮らすことになる>

イギリスのある情報番組が、出演した政治家にこう尋ねた。「あなたは、イエス・キリストが助けを求めてきてもルワンダに送るのか?」

こんな質問が出る背景には、イギリス政府が4月14日に発表したルワンダ政府との協定だ。イギリスにやってきた難民希望者の一部を片道切符のフライトでアフリカ東部のルワンダに送り、そこで難民申請の審査手続きを行う、という内容だ。

この計画は、多方面からの厳しい非難にさらされている。例えば、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の高等弁務官補を務めるジリアン・トリッグスは、「あまりにひどい。国際法および難民法違反だ」と表現した。

イエスも難民だった

イギリスのテレビ局ITVの朝の情報番組「グッド・モーニング・ブリテン」で取り上げたのもこの問題だ。放送日がイエス・キリストの復活を記念する復活祭の翌日にあたったため、冒頭の「イエスでもルワンダに送るのか」という質問になった。司会者は、ゲスト出演したビジネス・エネルギー・産業戦略大臣のグレッグ・ハンズにこう尋ねた。

「ハンズ大臣、昨日はちょうど復活祭のお祝いで、イエス・キリストの生涯と、イエスが生きた時代に思いをはせる時期です。イエス自身も難民でしたね」

そしてイギリス政府の計画に基づけば、仮にイエス・キリストが現在のイギリスに到着した場合は「ルワンダに送られる」ことになると指摘した。「そういうことですよね? あなたなら、イエス・キリストをルワンダに送り返しますか?」と、司会は聞いた。

ハンズは、この質問に少しショックを受けたような様子を見せ、笑った。

「ばかげた質問だ」とハンズは答えた。「私たちが今いるのは、キリストから2000年後の時代だ。英仏海峡を渡って非合法な形でイギリスに入国を試みる移民は2万8000人に達し、その間に27人の人が亡くなっている」と、密入国者を水際でふるい落とす必要性を指摘した。

しかしBBCによると、ルワンダに送られた難民は、申請が認められてもイギリスには行けずルワンダで「新しい生活」を築くことになっている。

責任を人に押し付けるのか

ハンズの発言の前には、イギリス国教会の最高指導者であるカンタベリー大主教、ジャスティン・ウェルビーが、4月17日に行われた復活祭礼拝の説教で、慣例を破って政治の話題に触れ、政府によるこの計画を批判した。

「難民を海外に送ることには、倫理面で深刻な疑義がある」と、カンタベリー大聖堂で行った説教の中で、大主教は述べた。「我々自身が負うべき責任を他国に請け負わせることは、たとえ相手の国に適切に実行する意志があったとしても、神の本質に背くものだ。神は自ら、我々のあやまちの責任を負ってくださった」

一方、イギリスの内務大臣を務めるプリティ・パテルは、英タイムズ紙に、ルワンダの外務大臣ヴィンセント・ビルタと共同執筆した意見記事を投稿し、大主教をはじめとする人々の批判の声に反論した。「我々は、大胆かつ革新的な措置を講じている。この計画を批判する諸組織が、代替案案を提示していないことに驚きを禁じ得ない」

(翻訳:ガリレオ)

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

ブラックストーンとTPG、診断機器ホロジック買収に

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

タイ、通貨バーツ高で輸出・観光に逆風の恐れ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中