最新記事

ウクライナ侵攻

東部・南部の本格攻勢を経て、ロシアはキーウ制圧に戻ってくる

New Russian Offensives?

2022年4月4日(月)18時30分
デービッド・ブレナン
親ロ派の装甲車

南東部の港湾都市マリウポリ付近を走る親ロシア派の装甲車隊 ALEXANDER ERMOCHENKOーREUTERS

<キーウからの部分的撤退は勝利宣言するための準備にすぎない。中国とインドが肩を持つかぎり、ロシア軍はいずれ再び首都を目指してやってくる>

去る3月29日、ロシア軍はウクライナの首都キーウ(キエフ)とその北東にある都市チェルニヒウからの部分的「撤退」を表明したが、だまされてはいけない。それは和平交渉の材料どころか、東部と南部で攻勢を一段と強める準備にすぎないと、ウクライナ側はみている。

ロシアのアレクサンデル・フォミン国防次官は「相互の信頼を高め、さらなる交渉に向けて条件を整える」ために軍事活動を大幅に縮小すると述べたが、ウクライナを支援する西側陣営の誰も、そんな話は信じていない。

「自主的な撤退ではなく、わが軍に撃破されただけのこと」だと、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は述べた。「それでロシア軍は今、(東部の)ドンバスへ総攻撃をかけるために部隊を再配置している。むろん、こちらも備えはできている」

ロシア軍は、今回の「特別軍事作戦」の「第1段階」は首尾よく完了したと総括している。だが西側から見ると、ロシア軍は主要な戦略目標を達成する能力を欠き、膨大な数の死傷者を出し、兵器などの物資も大量に失っている。

それでもロシアは「どうしても何らかの成果を必要としている」と本誌に語ったのは、元ウクライナ国防相のアンドリイ・ザゴロドニュクだ。

ロシア側は、この戦争の「第2段階」で東部ドンバス地方の「解放」を目指すとしている。かつてウクライナ海軍で副参謀長を務めたアンドリイ・リジェンコのみるところ、ロシア側の真意は「前線の部隊を再編した上で、東部のドンバス地方を総攻撃する」ことにある。

東部のドネツク州とルハンスク(ルガンスク)州を合わせたのがドンバス地方で、当地の親ロシア派はその全域をロシアの庇護下で「人民共和国」にすると主張している。ロシア大統領のウラジーミル・プーチンにとっても、それが停戦の最低条件だろう。

かつてウクライナの国家安全保障・国防会議のメンバーだったアレクサンドル・ハーラも、ドンバス地方の制圧がロシアの最優先事項だと考え、特にハルキウ(ハリコフ)の南北に位置するイジュムとスーミの2都市の攻防が「カギを握る」と語る。

この2都市を落として、ドンバスにいるウクライナ軍の精鋭部隊を南北から包囲し、全滅させる。それができれば、プーチンは今後の和平交渉で強い立場に立てるわけだ。

南部ではロシアが優勢

「イジュムを制圧されたら、ドンバス地方にいるウクライナ軍は補給路を断たれる」とハーラは指摘する。「あそこでウクライナ軍を包囲し、無力化できれば、プーチンはドネツク州とルハンスク州を『取り戻した』と宣言できるだろう。それをロシア軍の勝利と言いふらせば、和平を受け入れる下地もできる。それに、運がよければプーチンはウクライナから、海への出口を奪うこともできる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スペースXの上場計画を投資家は歓迎 史上「最も熱狂

ビジネス

世界のEV販売台数、11月は24年2月以来の低い伸

ワールド

トランプ氏、議決権行使助言会社の監視強化を命令

ワールド

ブルガリア内閣が総辞職、汚職まん延への抗議デモ続き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 4
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 5
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 9
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 10
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中