最新記事

ウクライナ

ロシアが最大50万人のウクライナ人を強制移住 「ろ過収容所」で拷問か

2022年4月28日(木)14時50分
青葉やまと

ウクライナ市民が、ロシアに強制移送されている...... UATV English-YouTube

<生活インフラを破壊し、バスに乗せてロシアへ強制移送。危険地帯からの自主的な避難だとロシア側は説明している>

ロシアは侵攻以降、占領地域および親ロシア派支配地域の人々をロシアに強制移住させている。ウクライナ当局によると、その数は最大で50万人にのぼる。戦闘の激化するマリウポリからも、数百人が連れ去られた。詳細な行方はわかっておらず、多くは「ろ過収容所」と呼ばれる施設に送られたとみられる。

ろ過収容所の「ろ過」とは、民間人と反体制思想者の選別を指す。ウクライナに潜むとロシアが主張する「ネオナチ」を民間人のなかから探し出すことが目的だ。急ごしらえのテント村などに収容され、衣服と身体の検査を受け、活動グループの記章やタトゥーなどが刻まれていないかを徹底的に調査される。

収容所から逃れたある女性は英ガーディアン紙に対し、厳しい尋問を受けたと明かしている。携帯電話の内容を調べられ、軍関係者に知人がいるかなど聞かれたあと、プーチンや今回の紛争に関する考えを質されたという。プーチンへの率直な意見などおよそ口にできなかったとみえ、「ひどく屈辱的でした」と女性は唇を噛む。

ロシアは、1990年代に勃発したチェチェン紛争においてもろ過収容所を設けている。収容されたチェチェン人は拷問を受けており、その多くは消息不明だ。米CNNは当時のろ過収容所からの生還者の証言として、「粗末な部屋に入れられ、電気ショックや殴打、そして容赦ない尋問を受けた」と報じている。

生活環境を破壊し、移住を仕向ける

強制移送の第一段階としてロシア軍は、まずは生活インフラを断ち、現地で生きる意欲を奪うことが多い。ウクライナ北東部ハルキウの農村では、2月24日の侵攻直後にロシア軍が押し寄せた。電力を遮断したうえで砲撃を加え、最終的に住民60余名を連れ去っている。

連行されるまでの1ヶ月ほどを占領下で過ごしたという農夫は、キーウ・インディペンデント誌に対し、「生き地獄」だったと振り返っている。

村の電力はウクライナ侵攻からわずか1時間ほどで遮断され、以降回復することはなかった。暖房も携帯電話も使えず、食料も薬の供給もないまま、男性は食料の蓄えと飼っていた乳牛のミルクで飢えをしのいだという。村は何十台もの戦車と装甲車に囲まれ、恐怖のあまり「できることなど何もなく、自分の人生はもはや選べないのだと思い知りました」と農夫は語る。

人々は占領下で震えながら家にこもったが、ロシア兵は宅内に押し入って破壊の限りを尽くした。やがてロシア兵たちは村役場で退役軍人のリストをみつけると、彼らの捜索をはじめたという。逃げ延びた2名を除いて元軍人たちは連れ去られており、安否はいまだわかっていない。おそらく殺害されたのだろう、と農夫は考えている。

占領から1ヶ月ほど経つと、農夫を含む村人60名が意思に反してバスに乗せられ、ロシアへの強制移送となった。本来ならろ過キャンプに送られるはずだったが、住民たちの激しい反抗により、全員がモスクワ近郊の鉄道駅で降ろされることとなる。農夫は無一文のままモスクワの親戚を頼り、ベラルーシ経由でポーランドへ抜けた。ほかの多くの住民たちは、恐怖のあまりロシアから離脱できずにいるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタ、23年度は世界販売・生産が過去最高 HV好

ビジネス

EVポールスター、中国以外で生産加速 EU・中国の

ワールド

東南アジア4カ国からの太陽光パネルに米の関税発動要

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中