最新記事

ウクライナ情勢

プーチンの目的は『ウクライナに傀儡政権を樹立すること』ではない 「プラハの春」と同じ手法を試みている

2022年3月12日(土)13時25分
佐藤 優(作家・元外務省主任分析官) *PRESIDENT Onlineからの転載
ロシアのプーチン大統領

プーチン大統領のウクライナ侵攻の目的は……  Sputnik - REUTERS


ロシアウクライナ侵攻にはどんな目的があるのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「プーチン大統領の目的は傀儡政権の樹立ではない。完全な傀儡政権はウクライナの国民に支持されないことを、プーチン大統領は歴史から学んでいる」という――。

プーチンの目的は3つある

ロシアによるウクライナへの攻撃は、国連憲章に違反し、国際秩序を力づくで変更しようとする試みで、断じて認めることはできません。ロシアの責任は法的にも道義的にも大きく、厳しく指弾されなくてはいけません。

ただし、ロシアの進軍が止まらない以上、これから何が起きるのか、ひいては今回の軍事行動がどのような内在的論理に基づいているのか、正しく理解する必要があります。

大半のメディアや識者が、「プーチン大統領の目的は、ウクライナに傀儡政権を樹立することだ」と言っています。しかし私の見立ては異なります。

まず、ロシアがウクライナへ侵攻した目的は、3つあります。

1つ目は、ウクライナ東部のルガンスク州とドネツク州にいるロシア系住民の保護。そのうち70万人は、ロシア国籍をもつ人たちです。

2つ目は、ウクライナを軍事的な脅威ではなくすこと。すなわち、ウクライナ軍の攻撃的な兵器をすべて叩き潰すことです。ロシアが一番恐れていることは、ロシアと隣接する国に敵対する軍事大国が存在することです。ソ連時代の第2次世界大戦時にドイツ軍の侵略を受けて、2600万人もの犠牲者が出た苦い経験から来ています。

ですから、第2次世界大戦後、東ドイツやポーランドをソ連に併合する案が出たときも、それをあえて拒否したのです。ソビエトが主権国家の連邦である以上、それも可能だったのに、独立した人民民主主義国としました。NATO諸国との間に東欧各国が存在すれば、バッファー(緩衝)となる中間地帯にできるからです。

もしもウクライナがNATOに加盟すれば、バッファーを失ってしまいます。これがロシアの安全保障観です。その意味からもウクライナ全体の占領や併合はせず、非軍事化された戦略的な中間地帯にしておきたいはずです。

「ハンガリー動乱」「プラハの春」と同じ方法を試みている

そして3つ目の目的が、親米で反ロシア路線のゼレンスキー政権を倒すこと。ただし、次の政権は傀儡ではなく、ロシアと融和的であることが条件となります。完全な傀儡政権はウクライナの国民に支持されないことを、プーチン大統領は歴史から学んでいます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ軍、ドネツク州要衝制圧か プーチン氏「任務遂行に

ビジネス

日経平均は横ばい、前日安から反発後に失速 月初の需

ビジネス

午後3時のドルは155円後半で小幅高、円売りじわり

ビジネス

英、ESG格付け規則を28年施行へ 利益相反懸念に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 4
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中