最新記事

ウクライナ情勢

「みんなトラウマになる」「この臆病者を見ろ」「どこの国境でも人種差別」...ウクライナ難民ルポ

SEEKING SANCTUARY

2022年3月18日(金)18時40分
ダイアン・ハリス、ファトマ・ハレド、ハレダ・ラーマン

220322P24_LPO_03.jpg

リビウの駅でポーランド行きの列車への乗車を待つ人々(2月27日) ETHAN SWOPE-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

EUの分断がプーチンの狙い

シリア人と違って、ウクライナ人には肌の色や宗教など、ヨーロッパとの共通点がある。

だが西ヨーロッパには、東欧の人々は貧しく、文化的価値観を共有していないという先入観がある。だから軋轢が起きるリスクはあるとパレクは言う。

2015年には欧州の政界でこうしたテーマが強調され、欧州全域で右派的な感情がさらに高まった。同じことが再び起これば、プーチンに有利に働く可能性がある。

「ここ8年ほどの間に誕生した右派政権には独裁的な傾向があり、法の支配や人権の原則、国際的に認められた条約から離れようとしている」とパレクは指摘する。「法の支配、民主的な選挙、国際法といった民主主義の原則が(西側諸国で)損なわれたら、プーチンは堂々と民主主義や法の支配を無視できる」

アメリカの保守系シンクタンク「ランド研究所」に所属するチャールズ・リースとシェリー・カルバーストンを含む一部の専門家は、ウクライナ難民の状況は2015年の危機と「同じか、それ以上」に欧州政治に影響を与えかねないと警告する。

「今回のウクライナ人の大移動は、規模において(2015年のときを)はるかに上回っている。それだけ政治的な影響も大きくなるだろうし、右翼や民族主義の運動を勢いづかせるリスクがある」。リースとカルバーストンはロシア軍侵攻の1週間前に、そう論じていた。「過去に移民の流入を経験した社会が新たな難民に反発すれば、NATO加盟国のさらなる分断を招くだろう。ロシアはそれを歓迎し、偽情報を拡散させて分断を広げようとするはずだ」

黒人少女より白人を優先

今でさえ、ウクライナから逃げてきても温かく歓迎されるとは限らない立場の人がいる。ウクライナに居住、就労、留学していたが市民権のない外国籍の人たちだ。

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのベンジャミン・ワードによると、アフガニスタンやインドなど外国籍を持つ人の場合、ヨーロッパ国境では法的立場が弱い。また欧州的な文化や信仰を共有していないから敬遠されやすい。

戦火を逃れて安全な場所へ逃げようとしたウクライナ在住の黒人の中には、この違いを思い知らされた人もいる。

ウクライナに足止めされているアフリカ系の学生たちは、自分たちに向けられた敵意をソーシャルメディアに投稿している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米加州の2035年ガソリン車廃止計画、下院が環境当

ワールド

国連、資金難で大規模改革を検討 効率化へ機関統合な

ワールド

2回目の関税交渉「具体的に議論」、次回は5月中旬以

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中