最新記事

中国

ピークを過ぎた中国は世界の脅威、習近平がまず噛みつく相手は?

2022年1月4日(火)15時45分
クリス・パッテン( オックスフォード大学総長)
習近平

習近平はナショナリズムをあおり、国民の支持を得ようとする可能性が高い Andrew Galbraith-REUTERS

<習が「国力のピーク期」を浪費した、との見方がある。過剰債務、人口動態、経済格差という深刻な構造問題を抱えた共産中国が、2022年、さらに攻撃的になる可能性がある>

独裁者は業績を他人に評価されることを嫌う。たとえ親しい同僚や側近であっても、誰かに成功や失敗を評価されることは、そのリーダーの弱体化につながる大きな一歩だ。

それゆえ彼らにとっては、批判を奨励することはもちろん、許すことも問題外なのだ。

毛沢東以来、中国共産党で最も強力な「ボス」となった習近平(シー・チンピン)国家主席は、このことを特に強く感じているに違いない。

習は2022年の第20回中国共産党大会で、鄧小平が党の最高指導者に課した2期の任期制限を撤廃し、3期目の政権継続を承認される見込みだ。

鄧の任期制限には毛時代のような独裁に戻ることを防ぐ措置という側面があり、実際に党指導部の集団指導体制を実現した。

しかし、習が構築した個人崇拝と党規約に盛り込まれた「習近平思想」の内容を見れば、現国家主席の意図は容易に理解できる。

習思想の第1の特徴は、中国共産党は中国の歴史・文化の最良の部分を全て受け継ぐ者であると断言していることだ。第2に、憤怒の念に駆られたナショナリズムの色彩が強い。

第3の、そしておそらく最も重要な特徴は、国民が朝起きてから夜寝るまでの全てを習が管理していることを決して忘れるな、という党と国への指示だ。

しかし側近たちは、中国が経済力と2008年の金融危機後に欧米が直面した問題のおかげで手に入れた「国力のピーク期」を習が浪費したのではないかとみているに違いない。

「ポスト・ピーク期」の中国が抱える構造問題は、今後ますます明白になるだろう。中国はこれまでのような、厄介なほどの成功を収めた新興大国ではなくなったようだ。

中国以外の世界にとっては、それによってさらに厄介な脅威となる可能性を秘めている。

magSR20220104post-peak-china-top.jpg

ILLUSTRATION FROM PROJECT SYNDICATE YEAR AHEAD 2022 MAGAZINE

体制を脅かす3大危機

中国がピークを過ぎたことを最も劇的な形で示した事例が、不動産大手・中国恒大集団の経営危機だ。

これを2008年のリーマン・ショックと比較するのは適切ではないだろう。この問題は単なる市場の大失敗ではなく、中国政府が直面する3つの重大危機のうちの2つが結び付いたものだ。

1つ目の危機は、特に不動産部門で深刻な過剰債務だ。今の中国は、10年前と同等の成長を達成するために2倍の借り入れを必要としている。

ハーバード大学のケネス・ロゴフと清華大学の楊元辰(ヤン・ユアンチェン)の試算によると、不動産・建設部門は中国のGDPの29%を占める。土地の使用権売却は極めて重要な地方政府の収入源であり、中国の個人資産の約78%が住宅関連だ。

しかし、民間部門の債務総額は2008年~2019年の間に8倍に膨れ上がり、現在ではGDPの約3倍の規模になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア黒海沿岸でウクライナのドローン攻撃、船舶2隻

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ビジネス

午前の日経平均は大幅続伸、5万円回復 AI株高が押

ワールド

韓国大統領府、再び青瓦台に 週内に移転完了
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中