最新記事

東南アジア

ミャンマー、間もなくクーデターから1年 民主派リーダー「2月1日、沈黙の抵抗を」

2022年1月26日(水)19時25分
大塚智彦

反軍政の市民も「不服従運動(CDM)」に共鳴して職場からの離脱、職務放棄で抵抗を示し、公立病院などで多数の医師や医療従事者が現場を離れた。軍政はこうしたCDMに参加した医療関係者に対して法的責任を追及する構えを見せており、今後さらに混迷が深まるものとみられている。

軍政によるデモや集会への対応はその後実弾発砲を含む強権弾圧となり、それが止むことはなく、クーデター後に組織された民主派組織「国民民主連盟(NLD)」と関係が深いとされる武装市民組織「国民防衛隊(PDF)」が組織され、各地で軍や警察など治安部隊と銃撃戦などの武装闘争を続けている。

こうした反軍政の市民による武装抵抗運動に長年軍政と対立してきた国境周辺の少数民族武装勢力も呼応。PDFの市民への軍事訓練、武器供与、共同作戦実施などで戦闘が激化している。

武装市民組織は「テロ組織」と軍政

ミン・アウン・フライン国軍司令官は1月20日に軍政を支える最高意思決定機関「国家統治評議会(SAC)」で武装市民組織であるPDFを「テロ組織」として徹底的に武力で弾圧する方針を改めて表明したと国営紙が伝えた。

これは東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国であるカンボジアのフン・セン首相が1月7、8日にミャンマーを訪問し、ミン・アウン・フライン国軍司令官と会談した席で少数民族武装勢力と停戦する方針を明らかにした一方で、武装市民勢力とは徹底抗戦する方針を再度確認したことになる。

この時の少数民族武装勢力との停戦はあくまで軍政による一方的なもので、その後もチン州のチンランド防衛隊(CDF)、カヤ州の「カレンニー国民防衛隊(KNDF)」、カレン民族同盟(KNU)、ラカイン州のアラカン軍(AA)などと軍との戦闘は続いており、停戦があくまで軍政のポーズに過ぎないことを示している。

フン・セン首相のカンボジア訪問もASEANのコンセンサスを得たものでなく、加盟国内からは厳しい批判がでており、フン・セン首相の「スタンドプレー」への警戒も強まっている。

こうした状況の中で2月1日を迎えるミャンマーで市民は「沈黙の抵抗」で軍政への反発を示そうとしている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で

ワールド

中国、米国の台湾への武器売却を批判 「戦争の脅威加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中