最新記事

文革

元紅衛兵の伯父は今も文革を夢見る

STILL WAITING

2021年11月30日(火)19時48分
キャロライン・カン(ジャーナリスト)
紅衛兵

紅衛兵を動員した毛の文革は弾圧が横行する凄惨な政治闘争だった(1967年、上海) API-GAMMA-RAPHO/GETTY IMAGES

<文革の狂気にのみ込まれた優しいリーショイは間違ったことはしていないと現在も言い張る>

私の伯父(母の兄)の愛称はリーショイ。中国東部の大都市・天津の郊外に生まれ育ち、現在も年金を受け取りながら農夫を続けている。

伯父のことを悪く言う人はいない。みんな、「リーショイはいい奴だ」とか「正直者で、いつも陽気だ」と言う。私も子供の頃は、伯父が訪ねてくると聞くと、大喜びして家を駆け出し、今か今かとその到着を待ったものだ。ついに伯父がやって来ると、いつも肩車をしてもらい、その耳を引っ張ったりした。

そんな温かい思い出があるだけに、伯父が文化大革命のとき紅衛兵だった事実には当惑せずにいられない。

毛沢東時代の1966~76年に起きた文化大革命は、社会全体を大混乱に陥らせ、人々にとてつもない痛みをもたらした。紅衛兵は、毛の常軌を逸したビジョンを熱狂的に実行に移した若者たちの組織だ。

何より困惑するのは、優しくて正直な伯父が、かつて紅衛兵だっただけでなく、自分が当時紅衛兵としてやったことを、現在も少しも後悔していないと断言することだ。

文化大革命が中華人民共和国の歴史における重大な誤りだったことは、既に国内外で定着した歴史認識になっている(中国共産党も1981年6月に採択した「建国以来の党の若干の歴史問題についての決議」で、文化大革命は「誤り」だったと表現している。これは後にも先にもただ一度、党が謝罪に最も近いことを述べた出来事だ。最近は高齢化した元紅衛兵が当時の行いを公的に謝罪したり、特定の人物に謝罪したりすることがブームにさえなっている)。

「洪水に押し流されるように」

私は2015年の4月と11月の2回、伯父に紅衛兵時代の話を聞いた。親戚にも伯父について、そして伯父という人間を形成した文化大革命について話を聞いた。

それによると1966年5月、村の拡声機から政府の発表が流れてきた。リーショイが18歳のときだ。「ブルジョア階級の代表が、われわれの党、政府、軍、そして文化部門に潜り込んでいる。彼らは反革命的な修正主義者であり、権力を奪うときをうかがっている」

さらにある晩、リーショイの父が子供たちのために、ロウソクの明かりで影絵芝居をしていたときのこと。外で太鼓とどらが打ち鳴らされ、「地主とその子供らを打倒せよ!」と叫ぶ人々の声が聞こえてきた。

「あの音は何?」と、リーショイの妹や弟が聞くと、「紅衛兵だよ」と、父は答えた。

それからさほどたたないうちに、リーショイの周囲の若者はほぼ全員紅衛兵になっていた。リーショイも紅衛兵になった。理由ははっきりしない。「洪水に押し流されるような感じだった」と、彼は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フィッチが仏国債格下げ、過去最低「Aプラス」 財政

ビジネス

中国、米の半導体貿易政策を調査 「差別的扱い」 通

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 10
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中