最新記事

シリア

悪夢のシリア内戦から10年、結局は最後に笑ったのは暴君アサド

Bashar is Back

2021年10月22日(金)18時19分
トム・オコナー(本誌中東担当)
バシャル・アサド大統領

PHOTO ILLUSTRATION BY GLUEKIT, ALEXEI DRUZHININーRUSSIAN PRESIDENTIAL PRESS AND INFORMATION OFFICEーTASS/AFLO

<大量の死者と難民を出した内戦を経ても、アサド政権は倒れずロシアとイランの支援を受けて国際社会に復帰しつつある>

いよいよ独裁者の運も尽きたぞと、10年前には思えたものだ。2011年のこと。シリアの若き大統領バシャル・アサドは平和的な抗議運動を武力で容赦なく弾圧した。これに反発する国軍兵士の一部を含む勢力が武装蜂起し、例によってアメリカを含む外国勢力が彼らを支援し、政権打倒を目指した。そんな構図ができたのはいいが、その後の展開は悲惨だった。

化学兵器による攻撃に一般市民が巻き込まれ、虐殺と拷問が繰り返され、推定でも死者は60万人以上。何百万もの人が住む家を追われ、シリア内戦は新しい世紀を血で染める衝撃の武力紛争となった。

アメリカは11年にアサド政権に対して経済制裁を科し、翌年には在シリア大使館を閉鎖。西側諸国の多くも追随し、アラブ連盟ですら、11年秋には一時的ながらシリアの参加資格を停止した。

そうしてアサドは世界中ののけ者になった──はずなのに、なぜか今も健在で、そして国際舞台に驚異のカムバックを果たそうとしている。

アサドは自ら内戦の火種をまいた。それでもアサドに代わる人物は現れず、10年たっても首都ダマスカスの宮殿には依然としてアサドが君臨している。イランとロシアによる後ろ盾も健在で、いつの間にか国土の多くを反体制派から奪還している。

アメリカは今もアサド政権を認めない立場だが、10年前にアサドを見限った国々の多くが、こうした現実を踏まえて彼をまた迎え入れようとしている。先月には、ヨルダンがシリアとの国境を再び開いた。アラブ連盟は近く、シリアの資格停止を取り消すものと予想される。

アサド政権の存続とどう向き合うか

「アサドは権力の座にとどまる」。14年までアメリカの駐シリア大使を務めたロバート・フォードは本誌にそう語った。「もはや反政権派が武力で彼を退陣に追い込む事態は想像できない。現実的に可能な代替策がない」

米国務省の分析官だった米平和研究所(USIP)特別顧問(シリア担当)のモナ・ヤクービアンに言わせると、政権交代が非現実的になった以上、今後の問題は関係各国がアサド政権とどう向き合っていくかだ。

「アサドにはロシアとイランの後ろ盾があるから、少なくとも中期的には政権を維持する可能性が高い」とヤクービアンは本誌に語った。「既に周辺諸国の多くは、この現実を認めている。今後は、この現実に沿った対応がますます顕著になっていく」

シリアと他のアラブ諸国との和解が進むのは確実だが、その先にどんな勢力図が描かれるかは不透明だ。とりわけ懸念されるのはアメリカの出方。それ次第で中東圏のみならず、国際的な勢力の均衡に影響が及ぶ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中