最新記事

アフガニスタン

まるで敗戦直後の日本軍を奪い合う中共軍──米大使館存続望むタリバン

2021年8月29日(日)12時37分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
アフガニスタンからの避難民を乗せた飛行機

アフガニスタンからの避難民を乗せてきた飛行機(8月27日、フランクフルト) Kai Pfaffenbach-REUTERS

敵として戦った米軍に対し、今タリバンはその大使館存続を望み、トルコには空港管理を依頼している。それは日本投降後の中国で、中共軍が日本軍人の技術を奪い合ったことを想起させる。空軍力が欠如していたことも共通している。

タリバンがアフガニスタンのアメリカ大使館存続を望むと表明

アメリカ国務省のプライス報道官は8月27日、タリバンがアメリカ政府に対して、8月末の駐留米軍の撤退期限後もアフガニスタンにあるアメリカ大使館の存続を望むと明確に示したと明らかにした。ロイター電共同通信などが伝えている。

ロイター電はさらに、プライス報道官が「アメリカはアフガニスタンの人々に対する人道支援を継続する」と表明し、「ただタリバンの財源にならないようにする」とも述べたと報道している。

アメリカはそもそも、このタリバン勢力を打倒するためにアフガニスタンに軍事侵攻をしたのだ。2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロの犯人であるアルカイーダのオサマ・ビン・ラディンを匿(かくま)っているとして、当時タリバン政権だったアフガニスタンを武力攻撃した。タリバン政権を崩壊させてから20年間、アメリカがアフガニスタンに留まり続けて戦ってきた相手はタリバンだ。

そのタリバンが、最大の敵であるはずのアメリカに「どうか大使館をアフガニスタンに残してくれ」というのだから、信じがたいような展開である。

しかし8月27日のコラム<タリバンと米軍が「反テロ」で協力か――カブール空港テロと習近平のジレンマ>に書いたように、カブール空港でテロ事件が発生して以降は、タリバンとアメリカは「共通の敵」=「テロ組織」を撲滅させるために、すでに力を合わせて戦っている。したがって西側諸国の象徴であるようなアメリカには、何としても大使館を置いてほしいと思うのも不自然なわけではない。

大使館を置くということは、タリバン政権を国家として認めたことにつながる。

アメリカが大使館を存続させるのならば、他の西側諸国も大使館を戻し、タリバン政権が樹立する「アフガニスタン・イスラム首長国」を国家として認める可能性が出てくる。

タリバンがアメリカと協力してテロ組織を打倒するという戦術に出たのは、これが目的だろう。

タリバンもなかなかに強(したた)かだ。

カブール空港の管理はトルコに依頼

8月31日までカブール空港を管理しているのは米軍だが、米軍が31日に撤退してしまうと、カブール空港を管理する者がいなくなる。

タリバンは航空機を持っていなかったし、航空技術や空港管理に長(た)けた者もいない。したがって米軍が去ってしまったら、カブールの空は機能麻痺をきたす。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米の大学でイスラエルへの抗議活動拡大、学生数百人

ワールド

ハマス、拠点のカタール離れると思わず=トルコ大統領

ワールド

ベーカー・ヒューズ、第1四半期利益が予想上回る 海

ビジネス

海外勢の新興国証券投資、3月は327億ドルの買い越
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中