最新記事

医療

糞便移植が新型コロナの回復と関連があるかもしれない、との症例報告

2021年7月13日(火)17時00分
松岡由希子

新型コロナの新たな治療法として腸内細菌叢移植を提案された...... CBC News: The National-Youtube

<新型コロナウイルス感染症を併発したクロストリジウム-ディフィシル感染症患者が糞便移植(腸内細菌叢移植)後、新型コロナから早期に回復したという症例が報告された>

健常者の糞便を患者の腸に移植する「糞便移植(腸内細菌叢移植:FMT)」は、大腸の炎症により下痢の症状を引き起こす「クロストリジウム-ディフィシル感染症(CDI)」などの治療に用いられることがある。

ポーランド・ワルシャワ医科大学の研究チームは、2021年7月6日、胃腸病学および肝臓学に関する査読医学雑誌「ガット」で、「新型コロナウイルス感染症を併発したクロストリジウム-ディフィシル感染症患者が腸内細菌叢移植後、新型コロナウイルス感染症から軽症で早期に回復した」という2症例を発表した。

糞便移植の2日後、熱が下がった

肺炎で入院した80歳の男性患者は、メロペネムの投与後、肺炎の症状が改善したものの、クロストリジウム-ディフィシル感染症を発症した。クロストリジウム-ディフィシル感染症は、抗菌薬治療などによる腸内細菌叢の撹乱に伴って発症することが多い。

そこで、その治療のために腸内細菌叢移植を行った当日、発熱し、新型コロナウイルス感染症のPCR検査で陽性と診断された。患者は新型コロナウイルスにも感染していたとみられる。レムデシベルと回復期血漿による治療を行ったところ、腸内細菌叢移植の2日後には熱が下がり、肺炎が悪化することもなかった。

免疫抑制による潰瘍性大腸炎の19歳男性は、クロストリジウム-ディフィシル感染症の再発で入院した。バンコマイシンによる治療で症状が改善した後、再発予防のため、腸内細菌叢移植を行った。腸内細菌叢移植から15時間後、体温が39度に上昇し、新型コロナウイルス感染症のPCR検査で陽性と診断された。その後は、ほぼ平熱に戻り、自然治癒した。

研究論文では、これら2症例をふまえて「新型コロナウイルス感染症を併発した患者のクロストリジウム-ディフィシル感染症の治療において、腸内細菌叢移植は安全かつ有効だとみられる」と結論している。

新型コロナの新たな治療法として腸内細菌叢移植を提案

また、いずれの患者も新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが高いにもかかわらず、軽症のまま経過して治癒し、糞便での新型コロナウイルスの検出期間も平均値である27.9日より短かったことから、腸内細菌叢移植が新型コロナウイルス感染症の臨床経過に影響を及ぼしている可能性についても言及している。

腸内細菌叢移植と新型コロナウイルス感染症との関連については、すでに指摘されている。イランのシャヒドベベシティ医科大学の研究チームでは、2020年12月31日に発表した研究論文で、新型コロナウイルス感染症の新たな治療法として腸内細菌叢移植を提案している。

また、中国・福建医科大学、江蘇大学付属病院らの研究チームは、2021年2月8日に発表した研究論文で「ヒトの腸内細菌叢は免疫系と密接にかかわっており、新型コロナウイルス感染症が胃腸障害を引き起こすおそれがある」と指摘し、「腸内細菌叢移植は、腸内細菌叢を回復させ、胃腸障害を緩和させる可能性があり、新型コロナウイルス感染症の治療法やリハビリテーション介入として活用できるかもしれない」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中