最新記事

自然

熱波のアラスカで「氷震」が発生...珍しい自然現象の仕組みを解説

What Is an Ice Quake? Alaska Hit With Cryoseism Amid Northwest Heat Wave

2021年7月2日(金)18時03分
エド・ブラウン
アラスカの氷河

BOB STRONG-REUTERS

<歴史的な熱波に襲われて多数の死者も出ている北米だが、それによって「氷震」という珍しい自然現象も発生している>

北米大陸の太平洋岸北西部が記録的な熱波に見舞われているが、米アラスカ州では、その影響を受けたものとみられる2度の「氷震(アイス・クエイク)」が観測された。アメリカ地質調査所(USGS)のデータによれば、現地時間2021年6月28日夜と30日夜に、カナダと国境を接するアラスカ州の都市ジュノーで2度の揺れが発生した。

28日の揺れは規模がマグニチュード2.7で、震源の深さが6.6キロメートル。30日はマグニチュード2.6で、震源の深さは9.4キロメートルだった。この程度であれば、いずれの揺れも、たとえ感じたとしてもさほど強くなかったはずだ。

氷震は地質学的な事象だ。カナダのアルバータ州立地質調査所(AGS)によると、気温が急激に上昇した際に、地盤に含まれる氷が膨張して体積が変化し、その変化が限界を超えたときに起こる。

その結果、地盤に亀裂や隆起ができ、地震波が生じることがある。それを地震計が検知するわけだ。氷震は、地殻変動で引き起こされる地震とは異なる。

氷震という言葉は、霜地震(フロスト・クエイク)を指して使われる場合もあるが、AGSはこの2つを区別している。AGSによると、霜地震は、水分を多く含んだ土壌が急激に凍結して膨張し、その圧迫で亀裂が生じて発生するものだ。

しかし百科事典ブリタニカでは、氷震と霜地震の両方に同じ定義があてられている。

氷が氷震ではなく地震を起こすことも

氷震も霜地震も、専門的にはCryoseism(日本語ではこれも「氷震」と表記される)に含まれる。氷震は、雪や氷、岩が、膨張や収縮によって圧迫されて、急に亀裂が生じたときに発生する事象だ。

ただ、ややこしい話だが、氷や水が(氷震ではなく)「地震」を起こすケースもある。科学者はかなり前から、氷河の融解によって、通常であれば地震が起きないような場所で地震が引き起こされてきたことを把握している。

2020年12月に発表された研究論文では、アラスカのグレイシャー・ベイ国立公園近くで進んでいる氷河の消失が、この近辺で起きている地震の時期と位置に影響を与えてきたことが明らかにされた。

研究論文の要約によれば、氷河の重さによって、その下にある地盤が沈下する場合があるという。また、その氷河が融解した場合には、沈下した地盤が上昇する可能性もある。

この研究論文の筆頭著者で、アラスカ大学フェアバンクス校に所属しているクリス・ロリンズは、こうした地盤の「リバウンド効果」と地震のあいだに微妙な相関関係があることを発見した。

アラスカで起こっている氷震の原因がなんであれ、北米大陸の太平洋沿岸北西部では、異常なまでに気温が上昇した状態が続いていることに変わりはない。

カナダのブリティッシュ・コロンビア州内陸部に位置する小さな田舎町のリットンでは、カナダの史上最高気温が3日連続で更新され、6月29日には摂氏49.5度を記録した。
(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国5月CPI、5カ月連続で下落 PPI1年10カ

ワールド

バングラデシュ、26年4月前半に総選挙 ユヌス首席

ビジネス

米FRB新副議長、金融規制方針の大幅変更方針を表明

ビジネス

独ポルシェ、組み立て最終段階の米への移管計画との報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 6
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 9
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 10
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中