最新記事

人権

日本の大学教員だった父を突然、中国当局に拘束されて

2021年6月9日(水)18時30分
袁成驥(えん・せいき)

拘束から2年経っても裁判は始まらず

父は吉林省にある吉林大学を卒業後、一橋大大学院の博士課程を修了。北海道教育大学に社会科教育の教員として27年間勤めていた。私から見て、父はとても真面目で厳格な性格だった。私が小さい頃から、父はどんな小さな嘘も許さない人であった。私が何か過ちを犯した時にそれ自体をとがめられることは全くなかったが、その過ちを隠そうとごまかしたり嘘をついたりした時には、容赦なく叱られた。また、父は厳しい性格ではあったが、勉強しなさいなどといった小言の類を、私は一度も言われた記憶がない。

父が常に強調していたのは、「周りに流されず、常に自分自身の頭で物事の是非を判断しなさい」ということだ。父はそういった誠実さや自主性を何よりも大事にしていた人であり、その教えは今の私にも深く染み付いている。だからこそ、今回、父がスパイ容疑で拘束されていることが全く信じられない。父の実直な人柄を知っている人は皆誰しもそう思っているはずだ。

事実、父が2019年5月に拘束されてから2020年3月に中国外務省報道官が初めて拘束を認めるまでの間、中国の検察は、証拠不十分という理由で父の起訴を二度も取り下げていた。拘束から2年以上が経った今も、未だに裁判すら始まっていないのは、父のスパイ容疑を立証する証拠が実際にはないからなのではと私は確信している。

これまで中国外務省報道官は父の拘束について、「本人が自白した。証拠は明らかだ。法的権利は保障されている」と公言している。しかしながら、実際の状況は真逆である。先述の通り、中国当局はこれまで一度もスパイ容疑の具体的な詳細について開示していない。そして、今年2021年5月9日に弁護士が初めて父と接見するまで2年近くもの間、私たち親族や弁護士はただの一度も父と接見することが出来なかった。今後、再び弁護士が父と接見できるのかどうかも分かっていない。父本人が弁護士と会うことすらままならない状況で、どんな法的権利が保障されるというのだろうか。

また、一度父と接見した弁護士によれば、父は容疑を否認しており、裁判で全面的に争う意向を示したという。長期間の中国当局の取り調べに屈せず、父は1人、自身の潔白を主張し続けている。中国国内ではこのようにスパイ容疑をかけられた時に、あえて自ら罪を認め、早期に釈放される人も少なくないと聞く。しかし、父はそうするつもりはないのであろう。

自身の正しさを貫く父の姿勢、その実直さを私は心から尊敬している。だからこそ、中国国内で耐え続けている父を、私は一人にさせたくはない。無実にも関わらず、解放のめどが全く立たないまま拘束され続けている父を、私は助けたい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中