最新記事

宇宙

中南米諸国が宇宙開発レースに参戦...大いなる夢と、その裏にある危機感の正体

LATIN AMERICA'S MOONSHOT

2021年6月8日(火)18時17分
ミリアム・ビダル・バレロ(サイエンス・ライター)
米企業スペースXの宇宙船ドラゴン

新時代の宇宙ビジネスに中南米諸国も参入を目指す(写真は米企業スペースXの宇宙船ドラゴン)

<中南米諸国が宇宙開発のための共同機関を設立。人工衛星の打ち上げ、さらには月や火星の有人探査を目指す>

旧ソ連の宇宙飛行士ユーリー・ガガーリンが人類史上初めて108分間の有人宇宙飛行に成功したのは、1961年のことだ。

それから60年。人類が宇宙に飛び立つことは珍しくなくなった......と言いたいところだが、それはあくまでも主にアメリカ、ロシア、中国、ヨーロッパ、日本といった国々の話だ。それ以外の国々は、宇宙開発を活発に行っているとは言い難い。

それでも、中南米諸国はこれまで何十年もの間、宇宙開発国の仲間入りを目指してきた。その最も新しい動きが「ラテンアメリカ・カリブ宇宙機関(ALCE)」の創設だ。中南米の国々が予算と人材と技術を共有することにより、宇宙開発を推し進めようというのだ。

メキシコとアルゼンチンがALCEの創設で合意したのは、2020年10月。ボリビア、エクアドル、エルサルバドル、パラグアイも参加する見通しだ(コロンビアとペルーは差し当たりオブザーバー参加)。

このアイデアが最初に提案されたのは06年のこと。その計画がようやく動き始めたのだ。早ければ、21年末もしくは22年にも最初の人工衛星を打ち上げる計画だという。

人工衛星の打ち上げに適した条件

アメリカや中国の壮大な宇宙開発計画に比べればささやかな目標に見えるかもしれないが、人工衛星ビジネスの重要性は見過ごせない。19年の市場規模は全世界で2710億ドルに達した(この金額には人工衛星の運用に加えて、衛星の製造と打ち上げ、地上設備の製造が含まれる)。これは宇宙関連ビジネス全体の収益の74%に相当する金額だ。

一方、科学者団体「憂慮する科学者同盟」が昨年12月に発表したリポートによれば、いま地球を周回している人工衛星は3400基近く。そのうち、中南米諸国が所有しているもの(共同所有を含む)は50基余りにすぎない。

これまで中南米諸国が宇宙開発に全く力を入れていなかったわけではない。アルゼンチン、ペルー、ブラジル、メキシコ、ボリビアは、宇宙開発を担う政府機関を持っている。アルゼンチンとブラジルは、打ち上げ基地も建設した。赤道近くに位置するコロンビア、ブラジル、ベネズエラ、エクアドルといった国は、アメリカよりも人工衛星の打ち上げに適している。

しかし20世紀末まで、中南米諸国の宇宙プロジェクトが成功したのは、旧ソ連やアメリカと共同で実施した場合だけだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ、今年の成長率予想を2.1%に下方修正 米関税

ビジネス

中国メーカー、EU関税対応策でプラグインハイブリッ

ビジネス

不振の米小売決算、消費意欲後退を反映 米関税で

ワールド

イスラエル、シリア大統領官邸付近を攻撃 少数派保護
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中