最新記事

森林

無計画な植林が環境を破壊している 侵略種化や8割衰弱も

2021年6月15日(火)18時26分
青葉やまと

植林から外来種の侵略が起きていた

植林の失敗はなにも日英に限ったものではなく、世界各地で繰り返されてきた。環境問題に特化したニュース・サイトの『モンガ・ベイ』は、スリランカでの事例を紹介している。過去に行われたマングローブの植林プロジェクトを評価したところ、事業対象のうち約4割の現場で、植えた樹木が全滅していた。面積別では全1000ヘクタールのうち8割が衰弱し、健全なマングローブの生態系が根づいたのは2割に過ぎなかったという。研究者たちは、大部分がマングローブの生育に不適切な土壌だったと指摘している。

南アフリカに目を移せば、19世紀に植えられた外来種のオーストラリア産アカシアが、侵略的な勢いで繁栄している。今ではその伐採に毎年大金が投じられている状態だ。顛末を紹介するガーディアン紙は、「不適切な木を不適切な場所に植えると、害がメリットを圧倒的に上回り、人々と自然のためにならないばかりか炭素の吸収も果たせない」と述べている。

自然林を蘇らせる手法が評価されている

このように植林は、既存生態系の破壊や外来植物の拡大に加え、農地縮小のジレンマや維持の難しさなど、多くの問題を潜在的に抱えている。善意の植林を責めるべきではないが、より実効的な手法が求められているのも確かだ。ガーディアン紙はオリジナルの植生を十分に考慮した植林が望ましいとしており、そうした方向での植林継続も一案になるだろう。

このところの傾向としては、自然界の回復能力を引き出す手法が注目を浴びている。人工的に木を植えるのではなく、土地本来の植生が再び活力を取り戻せるよう、人の手で最小限の手助けをするスタンスだ。BBCは、スコットランドで鹿を駆除することにより森林を再生させた成功例や、ルワンダでシダ植物を除去することで森の活力を蘇らせた事例を紹介している。

土地本来の状態に近い植物相が回復する可能性があり、生育に適した環境と合致することから、炭素の蓄積効率が高まるのではないかと期待されている。イギリスのキュー王立植物園の研究者たちが発表した論文によると、自然林を再生させた場合の炭素の吸収速度は、植林に比べて最大で40倍に達する可能性があるという。

難点としては、植林のように整然とした森林には仕上がらないため、美観が重視される市街地には向かないだろう。しかし、樹木本来の再生力に委ねることから維持管理コストが低く、予算あたりさらに多くの面積を緑化できるメリットがある。環境意識がますます高まるにつれ、植林に代わって自然林の再生が検討される機会が増えてゆくのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米議会が国防権限法案最終版公表、ディスプレー技術の

ビジネス

東エレク、青森県東方沖の地震で「建物・設備に被害確

ビジネス

マネーストックM3、11月は1.2%増 貸出増で7

ビジネス

マグナム・アイスの甘くない上場、時価総額は予想下回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 10
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中