最新記事

森林

無計画な植林が環境を破壊している 侵略種化や8割衰弱も

2021年6月15日(火)18時26分
青葉やまと

植林を多用する温暖化対策に、ここにきて危険性が指摘されはじめた Ryosei Watanabe-iStock

<温暖化対策の切り札となる植林だが、植生の破壊や外来種被害など負の側面が注目されはじめた>

荒れ地や農地の一部などを森林に転換する植林は、温暖化対策の切り札として活用されてきた。木は成長の過程で空気中から二酸化炭素を取り込み、それを炭水化物に変えて固着する。樹木が存在する限り炭素をその内部に貯蔵してくれるという考え方だ。

例としてイギリスでは、積極的に植林を推進している。森林面積率が13%と低いイギリスは、ヨーロッパでも2番目に緑の割合が少ない国だ。日本の68%と比較してもその差は際立つ。イギリス政府は植樹によって毎年3万ヘクタールの森林を増やし、急速に緑化を推進する目標を掲げている。

植林はすでに、環境目標達成に不可欠とも言われている。2015年のパリ協定は、産業革命以前と比較した平均気温の上昇を1.5ºCあるいは2.0ºC以内に留めるとの目標を定めた。単に排出を抑制するだけではこの達成は不可能だ、と英BBCは指摘する。しかし、植林を多用する温暖化対策に、ここにきて危険性が指摘されはじめた。

日本のスギ花粉症など、植林の副作用は数多い

植林による副作用は複数あるが、日本の私たちにとっても身近なものが一つある。日本では戦後、木材調達のため伐採した山林を補うべく、大量のスギを植樹した。この結果、1970年ごろからスギ花粉症がまん延し、現在も私たちを悩ませている。林野庁によると被害軽減のため、植林したスギを今では順次切り倒している状態だ。

関連してイギリスでも、多様性の欠如が問題化している。ガーディアン紙によると中部カンブリア州では、火災で焼失した湿原の植生を回復させる事業において、政府系企業が本来の植生を無視し、単一の種類の樹木で現地を埋め尽くした。一件は猛烈な批判にさらされ、政府委員会が非を認める事態となった。

悪質な例では、営利企業が英政府による補助金を狙い、安価な土地に大量の外来種を植林したケースもある。原状の草原にはカワセミ科のアカショウビンなど複数の希少な鳥が生息していたが、森林に変化したことで生息に適さなくなったばかりか、カラスやキツネなど天敵が繁殖しやすい環境が整ってしまった。環境保護のための植林が、希少種の棲処を奪った形だ。

仮に入念に植生を計画したとしても、狭いイギリスで貴重な農地を差し出す人は多くない。英インディペンデント紙は、「植林は良いことだと誰もが思っているが、ただし『うちの近所ではやめてくれ』となる」と市民の反応を総括する。加えて同紙は、もしも植林のために国内の貴重な農地を潰してしまえば、環境負荷の高い方法で生産された農作物の輸入に頼ることにすらなりかねない、とのジレンマを指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮ハッカー集団、韓国防衛企業狙い撃ち データ奪

ワールド

アジア、昨年は気候関連災害で世界で最も大きな被害=

ワールド

インド4月総合PMI速報値は62.2、14年ぶり高

ビジネス

3月のスーパー販売額は前年比9.3%増=日本チェー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中