最新記事

水資源

死海沿岸を呑み込む7000個の陥没穴 縮む塩湖で地下構造が崩壊

2021年6月21日(月)17時35分
青葉やまと
死海沿岸部のシンクホール

死海沿岸部のかつてのリゾート地は、陥没穴(シンクホール)でゴーストタウンに YouTube

<死海沿岸部に、過去数十年で大小7000個のシンクホールが発生。リゾート地がゴーストタウン化した。あと30年で消滅するともいわれる死海の縮小が原因だ>

イスラエルの死海西岸には、世界的に有名な観光スポットが点在する。リゾート地として知られるエイン・ゲティのエリアや、美容に良いという死海の泥で全身パックを堪能できるミネラルビーチなども、観光客が押し寄せる地域だ。

強烈な日差しが照らす陽気なリゾート地だが、どちらのエリアも湖岸を少し離れるとそのイメージは一変し、人影のないゴーストタウンが広がる。これらの町はもともと観光客の往来が盛んだったが、パンデミックで廃れたというわけではない。はるか前、80年代に災害によって封鎖され、すっかり人足が途絶えた。

その災害とは、現地で過去数十年間にわたって発生している陥没穴(シンクホール)だ。死海沿岸部で広く発生しており、総数7000個を超えた現在もなお増加し続けている。

突如として出現しては生活インフラを呑み込んでゆく陥没穴は、地元住民にとって大きな脅威だ。ある廃屋のすぐ裏手には縦横無尽に亀裂が走り、断面からは地形の変化で引きちぎられた水道管の断面が顔を覗かせる。

一帯ではほかにも、荒れ果てたガソリンスタンドや、無数の穴に見舞われて波打つように変形した幹線道路、そして土中に呑まれつつある建造物などが虚しく佇むばかりで、かつてリゾートで栄えた町は見る影もない。

こうした穴の規模は大小さまざまだが、大きなものになると直径数十メートルに及ぶ。地面はクレーター状にぽっかりと窪み、露出した地肌にははっきりと地層が見てとれる。穴の底部に溜まった塩水は、太陽熱で火傷するほどにまで熱せられていることがあり、滑落と併せて極めて危険だ。

穴は一夜にして複数出現し、主要道路の閉鎖を招くこともあるなど、被害は年々深刻になっている。このような事情によってかつてのリゾート地は閉鎖を余儀なくされ、今では荒涼とした姿を晒すばかりとなった。

Salt, Sewage and Sinkholes: The Death of the Dead Sea | Foreign Correspondent


消えゆく死海が沿岸の地下構造を変えてしまった

これほどまでに多くの陥没穴が見られるようになった背景には、現在急速に縮小している死海が大きく関係している。

死海の沿岸部は、厚さ20メートルほどの土砂の表層で覆われている。この下には厚さ70メートルもの大量の塩の層が眠っており、表土を支えているという構造だ。深部の塩の層はたびたび地下水に接触しているが、以前であれば融解してしまう危険はなかった。

理由として地下水には、死海側の塩分が豊富に含まれている。死海は海面より標高が低いため、河川から流れ込んだ水が海へと流出することなく蒸発し、その湖水には塩分が凝縮されている。塩分濃度はおよそ30%に達し、海水のほぼ10倍に相当する濃さだ。この濃度の地下水が塩の層と接触しても、塩はほぼ溶け出ることがない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と電話会談の用意 「主権国家

ワールド

ウクライナ鉱物協定、近く署名へ 発電所の米所有巡り

ワールド

ロシア・ウクライナ、攻撃の応酬 「石油施設で火災」

ビジネス

FRBの利下げ望む=トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 6
    ロシア軍用工場、HIMARS爆撃で全焼...クラスター弾が…
  • 7
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 8
    トランプの脅しに屈した「香港大富豪」に中国が激怒.…
  • 9
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 10
    ドジャース「破産からの復活」、成功の秘訣は「財力…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 10
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中