最新記事

中国

中国共産党建党100周年にかける習近平──狙いは鄧小平の希薄化

2021年6月22日(火)10時55分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

習近平は逆に、この鄧小平を「過渡期の指導者」として「鄧小平+江沢民+胡錦涛」の3人の中に押し込めてしまったのである。

習近平は父・習仲勲を破滅に追いやった鄧小平を絶対に許さないだろう。

しかし鄧小平は日本によって救われ、神格化されてしまった。

すなわち、1989年6月4日の天安門事件に対して西側諸国が断行した対中経済封鎖という制裁を、日本が解除させたことによって、民主を叫ぶ若者を武力で鎮圧したことが免罪され、その後の中国経済の発展を可能ならしめた。

結果、中国を含めた世界各国が、鄧小平の罪悪をサッサと忘れて、「人権を蹂躙してもかまわない。経済を発展させれば功労者」というイメージを広めたので、中国国内でも鄧小平を否定することはなかなかできない状況にあった。

そこで習近平はできるだけ「目立たないように」、「復讐の形」を実現していっている。

この展示コーナーの大小は、工夫に工夫を重ねた結果だとみなすことができよう。

「不忘初心」の「初心」が指すのは毛沢東と父・習仲勲

「中国共産党歴史展覧館」の頭には「不忘初心 牢記使命」という8文字がある。

「初心忘るべからず  使命を心に深く刻め」という意味だ。

この「初心」が指すのは、毛沢東と父・習仲勲であると解釈することができる。

なぜなら新中国建国は延安革命根拠地があったからこそ成功したのだが、延安があった陝北革命根拠地(西北革命根拠地)をゼロから築いたのは習仲勲たちだからだ。

しかし鄧小平は、習仲勲らに感謝し西北革命根拠地を重視する毛沢東の目を欺いて陰謀を重ね、習仲勲を失脚へと追い込み、1962年から1978年までの16年間の長きにわたって習仲勲に投獄・軟禁・監視という屈辱の限りを強いた。

鄧小平の陰謀によって、長征(国民党軍から逃れるために、毛沢東率いる中国共産党軍が西北を目指して1934年から1936年にかけて徒歩で1万2500kmを移動)の着地点であった延安の存在が薄められていったと同時に、長征そのものも高く評価されることが少なくなっていた。

毛沢東など、新中国誕生後にただの一度も延安を訪れることがないまま文化大革命に突入してしまい、延安を再訪しないまま生涯を閉じた。

2016年、長征成功の80周年を記念して、習近平は「長征」の存在意義を復活させ、毛沢東が歩んだ重要地点を自ら訪れて、父の故郷陝西省にある延安に戻った。

この時から中国は真っ赤に燃え始める。

習近平は自分を毛沢東に重ねて、「鄧小平を希薄化」しようとしているのである。

しかし、日本によって神格化されてしまった鄧小平をあからさまに希薄化することは、なかなかできない。

中国共産党歴史展覧館における習近平と鄧小平の展示スペースの差は、ようやく鄧小平への復讐を具現化した小さな一歩と解釈することができよう。

7月1日のパレードでは、もう一歩進んだ形での「鄧小平の希薄化」が具現化されるかもしれない。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止措置施行、世界初 ユーチ

ワールド

ノーベル平和賞受賞マチャド氏の会見が中止、ベネズエ

ワールド

カンボジア高官「タイとの二国間協議の用意」、国境紛
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中