最新記事

新型コロナウイルス

インドのコロナ地獄を招いた張本人モディの、償われることのない重罪

Modi Fiddles, India Burns

2021年5月12日(水)20時39分
カピル・コミレディ(ジャーナリスト)

210518P26hospital_IND_02.jpg

今のインドでは、限りある酸素を誰に与えるかを医師が選ばねばならない DANISH SIDDIQUIーREUTERS

モディは1月、インドには「新型コロナ対策の専用インフラ」があると自慢していたが、そんなものが本当にあれば、こんなに多くの人が死ぬわけがない。モディは14年にも、スマートシティーの実現と雇用の拡大を約束して選挙に勝ったが、またしても美辞麗句で国を欺いた。バラ色の公約の下にあったのは、荒廃と死のみだ。

もしも首相が責任を放棄せず、建設的な助言をする人々を悪者扱いしなかったら、インドはこんな人道危機に陥らずに済んだかもしれない。国民を地獄絵図から守るために必要な、時間も方法も専門家の助けもあったはずだ。

既に昨年11月の時点で、インド議会の委員会が感染第2波を警告し、政府に医療用酸素ボンベの調達増を求めていた。だがモディは対策を強化せず、自身のカルト的な人気を高めることと国富を略奪することのために新型コロナウイルスを利用した。

昨年3月、わずか4時間の猶予しか与えずに全土封鎖を発表して国中を混乱に陥れた数日後、モディは信託基金「PMケアズ」を創設し、コロナ救済のための寄付金を募集した。それで最貧層に救いの手を差し伸べ、マスクなどの購入や、各地での酸素ボンベ製造プラント増設を目指すことになっていた。

募集から2カ月で10億ドルを超える金額が集まったが、それをモディが何に使ったかは誰も知らない。というか、誰も知り得ない。寄付者に対しては税金上の便宜を図り、政府機関を通じて大々的な宣伝もしたというのに、基金が民間の公益信託として設立されたため、当局による監査の対象にならないからだ。

インド民主主義の破壊者

遅まきながら、モディは集まった資金の一部を酸素プラントの増設に回すという。だが焼け石に水だ。もはや彼の業績は歴代の首相と比較するに値しない。イギリスの植民地だった時代に、インド各地で飢饉が発生しても狩猟に興じていた悪徳英国商人たちと同類だ。

今のインドの惨状は、建国の父たちが設けてきた制度的な安全装置の数々を、モディが破壊してきたことの結果でもある。モディ個人に権力を集中させ、民主社会にそぐわないカルト的な人格像を確立させたことにより、コロナ禍への迅速な対応を首相に促すべき人や制度のほぼ全てが無力化されている。

例えばインドの最高裁判所は政治に物申す点で世界有数の実績を誇り、国民の期待を裏切る政府を厳しく糾弾してきた。なのにコロナ対策の大失態については一言も発していない。報道機関はモディをかばい、反モディ派を裏切り者呼ばわりする。国営テレビ局に至っては、モディをインドの救世主とたたえている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米HPが3年間で最大6000人削減へ、1株利益見通

ビジネス

米財政赤字、10月は2840億ドルに拡大 関税収入

ビジネス

中国アリババ、7─9月期は増収減益 配送サービス拡

ワールド

米陸軍長官、週内にキーウ訪問へ=ウクライナ大統領府
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中