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欧州のインド太平洋傾斜・対中強硬姿勢に、日本は期待してよいのか

2021年5月5日(水)11時20分
渡邊啓貴(帝京大学法学部教授、東京外国語大学名誉教授、日本国際フォーラム上級研究員)

日欧協力のさらなる摸索

このように見てくると、欧州主要国のインド太平洋進出というのは単純ではない。経済的利害関係は共有していても中国・韓国との領土問題を抱える日本とは、欧州の地政学的条件は異なるからだ。

領土・海洋権益の摩擦に対しては国連海洋法(UNCLOS)による解決をEUは再三主張する。そのことは日本が抱える領土問題において日本に有利な解決をもたらすものではない。

また欧州主要国のインド太平洋へのコミットは不安定な地域への仲介者としての関与も意味する。インド太平洋地域における日本の主張をEUがどこまでサポートするのか、期待と失望が錯綜することも予想される。

すでに欧州諸国はそうした次の段階も見据えているかのようである。EUが戦略的パートナーシップを締結するASEANへの接近だ。温度差はあるが、いずれの国々も基本的には多国間協力枠組みによるこの地域での問題解決を目指している。ドイツはそれを「独仏多国間主義(マルチラテラリズム)同盟」と呼ぶ。

ドイツはとくにASEANとの関係を英仏以上に重視している。ドイツのインド太平洋戦略の方向性が明確に示され始めたのは、ASEANが2019年6月に発表した「ASEANインド太平洋構想」以後であった。

いずれの文書でも拡大ASEAN防衛相会議(ADDM+)の多国間枠組みの重要性を強調する。米中対立のパワーポリティックスに巻き込まれない形での問題共有と解決の模索だ。日本の活路をめぐる次の論点もそこにあるのではないだろうか。

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