最新記事

ポピュリズム

米欧の研究で分かった、ポピュリスト政党の倒し方

HOW TO DEFEAT POPULISM

2021年2月23日(火)17時50分
ジョン・オースティン(ミシガン経済センター所長)、ジェフリー・アンダーソン(ジョージタウン大学教授)、ブライアン・ハンソン(シカゴ国際問題評議会バイスプレジデント)

フランス北東部の町アルグランジュにある鉱山労働者の壁画 JEFF J MITCHELL/GETTY IMAGES

<どの国でもポピュリズムの温床はラストベルト(さびついた工業地帯)。この地域で経済が再生し、人々が明るい未来を展望できるようになれば、選挙結果も変わってくる>

(本誌「ポピュリズム2.0」特集より)

アメリカにジョー・バイデン大統領が誕生して1カ月がたつ。

だが、バイデンが2020年大統領選で薄氷の勝利を挙げたミシガン州やペンシルベニア州、ウィスコンシン州などのラストベルト(さびついた工業地帯)では、今もドナルド・トランプ前大統領が唱えた過去へのノスタルジーとナショナリズム、そして排外主義を支持する声が強く残る。
20210223issue_cover200.jpg
アメリカだけではない。重厚長大型産業が衰退して、新たなポピュリズムの温床となっている地域はヨーロッパにもたくさんある。

こうした地域の人々は地元の衰退に怒り、経済的な将来に不安を抱き、社会の変化に不快感をあらわにする。それはゆがんだ愛国意識や反移民感情につながり、民主主義を内側から脅かし、国際秩序まで揺るがしつつある。

一体どうすればいいのか。複数の研究によると、ラストベルトでも新しい経済基盤を見つけた地域では、ポピュリズムの拡大が収まることが分かっている。

従ってバイデンとヨーロッパ諸国の首脳は、ラストベルトの経済転換を全力でサポートするべきだ。さもないと、アメリカもヨーロッパもポピュリズムの脅威にさらされ続けることになる。

昔からポピュリスト政党は、経済や社会の変化に適応できず、エリートに見下され、無視されていると感じる人々に熱烈に支持されてきた。しかし成熟した欧米民主主義国では、ナショナリズムや排外主義的な主張が政治的主流派になることはないと考えられてきた。

その「常識」が一変したのが、2016年のイギリスのEU離脱(ブレグジット)投票だった。

このときEU離脱派は、経済や社会の変化に対する人々の不安に付け込み、愛国意識をあおれば、選挙に勝てることを証明した。同年の米大統領選におけるトランプの勝利も、ポピュリズムが政治のメインストリームに躍り出たことを印象付けた。

ドイツでも翌2017年の総選挙で、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、かつて炭鉱業や鉄鋼業で栄えたルール地方や旧東ドイツの工業地帯、農村地帯で躍進した。

経済再生が投票行動を変える

2017年のフランス総選挙では、極右政党の国民戦線(現・国民連合)が、かつて鉄鋼業や炭鉱業が盛んだった北部で支持を伸ばした。大統領選でも、この地域では国民戦線の党首マリーヌ・ルペンが過半数の票を集めた(全国的には現大統領のエマニュエル・マクロンが勝利)。

2018年末に急速に盛り上がった政府への抗議運動「イエローベスト」も、かつての工業地帯から全国に広がった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:米株市場は「個人投資家の黄金時代」に、資

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック小幅続落、メタが高

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ビジネス

FRB、準備金目標範囲に低下と判断 短期債購入決定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中